色彩豊かで視覚に訴える図解や写真・絵などがふんだんに盛り込まれた資料集。
B5判で64ページと薄く小型判で、しかも本体が千円という価格ながら、本書は聖書の内容や歴史だけにとどまらず、キリスト教の教派・礼拝・儀式・祈り・祭日・シンボルや、キリスト教の歴史、歴史上に現れたクリスチャンの人物と言葉、キリスト教の音楽・建築・彫刻・文学などの文化、キリスト教と平和・人権・学校・医療・福祉などの社会活動に至るまで、簡潔かつ幅広く網羅している。
本書の著者は同志社香里中学高校聖書科教員で日本基督教団の牧師でもあり、読者の中にも、本書を聖書クラスや教会で用いようという人たちもおられるかと思う。
版元の日本キリスト教団出版局は、本書をキリスト教入門書として薦(すす)めている。手っ取り早くキリスト教を概観したいという方のためには、本書をそのように位置付けることもできるかもしれない。
一方、富田氏はこれまでにも日本キリスト教団出版局から『新約聖書(キリスト教との出会い)』(2002年)、『聖書資料集―キリスト教との出会い』(2004年)、『信じる気持ち―はじめてのキリスト教』(2007年)といった入門書をすでに出している。
アマゾン・ジャパンの書評欄では、それらの入門書についてさまざまな評価が記されているものの、本書を単独の入門書として切り離すのではなく、それらの入門書の流れの中に位置付けるのであれば、本書は聖書やそれらの他の入門書と組み合わせて、副読本の学習用資料集として用いることもできるだろう。
64ページからなる上述の『聖書資料集―キリスト教との出会い』も現代とのつながりを意識させるものであるが、本書もまた、キリスト教と現代社会とのつながりを解説している。今日を生きキリスト教について学ぼうとする人たちにとって、本書は単なる資料集にとどまらず、キリスト教が持つ諸相に対する視点と現代社会への眼差しを持つための助けとなるだろう。
ただ、欲をいえば、今日の西欧諸国や中東地域におけるキリスト教の変化や、正教会を含む東方教会や福音派・ペンテコステ運動、南半球のキリスト教の動的な諸相に関する資料や言及が、もう少しあってもよいのではないかと思う。それらには、この資料集の特色にもふさわしく色彩豊かで視覚に訴えるものがあるはずだ。キリスト教の変わらぬ伝統と共に、現代の世界において大きく変わりつつある、キリスト教の多様かつ新しい潮流をまとめて分かりやすく伝えることを、このような入門的なキリスト教資料集に求めるというのは、過大な要求だろうか。
『キリスト教資料集』富田正樹著、日本キリスト教団出版局、2015年12月15日発行、定価1000円(税抜)