フェアトレードや、開発途上国への支援を中心に行う一般社団法人「わかちあいプロジェクト」。1992年に、当時、日本福音ルーテル聖パウロ教会牧師であった松木傑(すぐる)氏によって設立された。現在でこそ、大手量販店やコーヒーショップでも見かけるようになったフェアトレード商品だが、当時はまだその言葉さえ、日本ではほとんど聞かれることはなかった。
1992年、松木氏が1カ月にわたり欧米の国際協力団体を訪問する中で、スリランカ産のオーガニックティーに出合った。こうした商品を適正な価格で買うことにより、その国のことを知り、支援してもらうことを目的に「わかちあいプロジェクト」を立ち上げた。
当初、スタッフは松木夫妻のみ。松木氏が牧師を務める教会の一角を間借りして運営していたが、現在は4人のスタッフが都内の事務所に勤務。松木氏は、牧師を引退し、自宅のある広島と東京を行き来している。
「神を愛し 隣人を愛せ」を理念に設立した1992年。世界に目を向けると、ソマリア内戦が激化し、飢餓問題も深刻化していた。同団体では、難民支援のための募金を早々に開始。ルーテル世界連盟(LWF)奉仕部に協力する形で、救援物資などを空輸した。
同団体の支援は大きく分けて、フェアトレード、難民支援、自立支援の三つがある。フェアトレード商品の種類は100種類を超え、日本でも有数の品数豊富な団体の一つだ。真冬の今の時期は、チョコレートを各国から輸入、販売している。
チョコレートの原料でもあるカカオの多くは、開発途上国で生産されるが、生産者には適正な価格が知らされておらず、仲買人の「言い値」で取引される。しかし、著しく低価格なため、厳しい労働条件にもかかわらず、生産者の生活は向上しない。
そこで、輸入業者が直接生産者に買い付けを行い、「監査人」がきちんと基準を満たしているかなどをチェックした上で、国際フェアトレード機構から認証するといったシステムが導入された。認証されると、「適正価格の保証」「プレミアムの上乗せ」「代金の前払い」「長期的な取引」が約束される。「プレミアム」とは、地域の生活環境向上を図るため、病院、学校などを建設する「奨励金」のことだ。
現在、「わかちあいプロジェクト」では、原材料のカカオも輸入している。個人で買い求める客の中には、「カカオから、自分でチョコレートを作ってみたい」と話す人もいるのだという。
難民支援では、ソマリアなどの南アフリカへの支援から始まり、毎年6月の定められた期間に古着を全国から募集し(※一定の期間のみ回収。詳しくはホームページ)、タイのミャンマー難民キャンプやLWFの活動地などに送っている。
ミャンマーでは、長く続いた内戦によって多くの人々が難民となり、1984年には正式に難民キャンプが設立された。以来、30年以上経った現在でも約12万人が九つのキャンプに分かれて、困難な生活を余儀なくされている。同団体では2007年から、ミャンマーに古着支援を行っている。
また、中東であふれ返る難民にも支援の手を伸ばしている。シリア難民支援については、すでにヨルダンのアンマンに拠点を構えているLWFとともに、主に衛生面での支援を行っている。衛生用品を受け取れるクーポンを現地で配布し、クーポンと引き換えに、洗剤や石鹸、乳児がいる家庭にはオムツを、女性には生理用品などを配布している。
シリア難民と同様、イラクからヨルダンに逃れてくる難民も多いという。中には、過激派組織「イスラム国」(IS)の弾圧から逃れたクリスチャンたちも、ヨルダン国内の教会などに身を寄せている。彼らの話によると、突然やってきたISの兵士に「2時間以内に村を出ていかないと、殺す」と言われたというのだ。チュニジアで起こった「アラブの春」から5年。まだまだ祈りと支援が必要だ。
経験、技術、財を「わかちあうこと」を理念にスタートした「わかちあいプロジェクト」。一人一人にできる身近な支援として、フェアトレード、古着支援、そして寄付がある。同団体の寄付のページには、聖書の「2匹の魚と5つのパン」の話があった。遠く日本にいる私たちができる難民支援を、祈り、考えていきたいものだ。