横浜市にある日本ナザレン教団青葉台教会の説教題は、ユニークでアイデアに富んでいる。数年前に、同教会の江上環(たまき)牧師が付けた説教題「教会なう」は、多くの反響があり、若者を中心に、SNSでシェアされるなど、話題を呼んだ。同教会には、「Lの福音」「未知との遭遇」「イケメンにはトゲがある」など、一見、読んだだけでは、どんなメッセージが語られるのか、想像できないようなものが、説教題として掲げられている。
「教会というのは、未信徒の方々には、どうも敷居が高いようですね。『聖書も読んだことがないのに、教会なんて行っちゃいけないのよね』という方が多い気がするのです」と江上牧師は話す。「われわれ、先に救われたクリスチャンは、何とかこの壁を壊さなければならない。教会は閉鎖的であってはいけません。まだ救われていない人たちを救いに導く。これを『伝道』と呼ぶならば、なおさら私たちクリスチャンだけが分かるような、いわゆる聖書用語を並べた説教題では、誰も教会に興味を持ってくれないと思うのです」と言う。
江上牧師が同教会の牧師に就任したのは、15年前。以前は、どこの教会でも見る聖書の御言葉の一節のような説教題を付けていた。しかし、教会の前を通る人々にインパクトを与えるような何かを考えなければ、いつまでも教会の存在すら気付いてもらえないと思うようになった。説教題を見て、「ちょっと聞いてみようかな?」と興味を持ってもらえればと考え、始めたという。
「そうしたきっかけがあって、あとは聖霊様が働いてくださり、その方が日曜日、教会へと足を運んでくだされば感謝なことですね。その『招き』をするために、私は、説教題はとても重要だと考えています」と江上牧師は言う。気になるフレーズ、ポスターなどの標語、テレビドラマのタイトルなどは、10、20代の自身の子どもたちと共にチェックする。これはというものがあれば、メモを取っておくこともあるという。
「特に若い子どもたちは、こうしたものに敏感ですからね。ユニークな説教題を付けるようになった頃から、時々、教会の前に立ち止まって、携帯で写真を撮っていく子どもの姿も見るようになりました。SNSなどに、投稿するのかもしれませんね。それで、それを見たどなたかが、教会へと足を運ぶ。それもまた導きなのかもしれませんね」と江上牧師はほほ笑む。説教題と説教の内容が違わないようにも注意を払う。そして、新来会者にも分かりやすい説教、誰が聞いても分かる説教をするのが、江上牧師のモットーだという。
しかし、全てのクリスチャンがこれに賛同するわけではなかった。「こんなタイトルは教会にふさわしくない」といった意見もあったが、江上牧師は、「クリスチャンが反対するときこそ、そこに伝道のヒントがあると思う。イエス様は、決して話のつまらない堅い方ではなかったと思います。聖書にもあるように、その土地の民たちに、分かるような例え話を用いて、神様の話をしてくださった。それならば私たちも、現代のこの土地に住む人々に少しでも聞き慣れた言葉を使って、宣べ伝えていくべきではないかと思います」と語る。
同教会には、子どもから今まで教会を支え続けてきたシニアまで、バランスよくさまざまな世代の信徒が集っている。「信徒はどんな説教題であろうと、日曜日は教会に足を運ぶでしょう。まだ救われていない一般の人々を教会へと招き、『リピーター』になってもらいたい。楽しくなければ、教会には来ないでしょう。そのためのアイデアや知恵は祈りの中で与えられています」と江上牧師は話す。
また、同教会のホームページも実にユニークだ。銭湯の入り口をモチーフにしたというそのトップページは、「僕がお風呂好きだというのもありますが、お風呂は体の汚れを落とす所。教会は心の汚れを落とす所のように思えて、このような絵にしてみました」と言う。
次の礼拝の説教題は、お笑いコンビ「クマムシ」のネタから、「教会ってあったかいんだからぁ」だという。聖書箇所は、新約聖書の使徒言行録2章。これから予定しているタイトルには、大流行のドラマ「Dr. 倫太郎」をもじった「Dr. イエス」「セリフはなくても主役のイエス様」などがあるという。神戸市で育った江上牧師は、「説教題を考えるのも、最近は楽しみになってきましたね。このタイトルだったら、興味を持ってくれるかなと考えると、ワクワクします。関西人のサービス精神というやつですね」と笑う。
「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門をたたきなさい。そうすれば、開かれる。だれでも、求める者は受け、探す者は見つけ、門をたたく者には開かれる」(マタイ7:7〜8)
ユニークな説教題を掲げる青葉台教会の扉を、今日も多くの人がたたき、飢え渇いた心を満たしにやってくる。