ところで、私はドイツ・デュッセルドルフで生活していたことがあります。この街は、日本人駐在員とその家族が一時は6千人から1万人ぐらい在住していました。街の中心部では、どこに行っても日本人ビジネスマンに会います。そこに、ある商社の社長さんがいました。彼は欧州と日本間で、主に貿易業務をしていました。しかし一方、彼は欧州にいながら日本との間で通信講座を受講し、会計士の資格を取られました。確か8年ぐらいかかったと聞いています。これは大変なことであったと思います。外地生活で、特に商社という大変忙しい職場で、重責を担いながら何年間も費やし、会計士の資格を取得されました。彼は現在、商社を辞め自分の会計事務所を持っておられます。
私は、かつて「日本人の約99%はエキサイトする人生を送っていない」という話を耳にしたことがあります。これは大変なことです。この商社の社長さんは、商品の売買を取り仕切ってはいましたが、「自分はやはり会計士の仕事に興味があるので、自分のオフィスを持ち社会にお仕えしたい」という願望を持っていました。その彼に資格取得へのモチベーションがかかり、彼は勉学に積極的に取りくみだしました。結果として、彼は自分のオフィスを開業しました。人は楽しいこと、生きがいを感じること、またやりがいがあることを問われるのです。人はそのような分野に入る時、驚くべき力を発揮しリズムに乗ります。私はそれを「倍々の法則」と呼んでいますが、自分の力以上のパワーを発揮する姿が現われます。ですから先ず基本的に大切なことは、好きなこと、関心のあること、興味のあること、楽しいことに目を向けることであると思います。
その次は「戦略論理の明確性」で、これは欧米文化と日本の違いであると思います。グローバル化は非常に速いスピードで進み世界を覆っていますが、これは私たちが見失ってはならない大切なポイントです。私は時として通訳を頼まれると、訳す際に困ることがあります。それは何かというと、日本語は論理性に乏しい言語であるからです。いったい何を言いたいのか不明なことがあります。そしてまた人によっては前置きが長過ぎ、本論になかなか入らず「あのー、そのー」で終始してしまうことがあります。結局何を言わんとしているのか分からず、時間切れになることもありました。社会がボーダレス化し進展していく中で、明確な論理性を持つ戦略が求められます。ビジネス交渉は、今やグローバルスタンダードの基準で進められる時代です。言い換えると、今の時代、「基本を押さえて、時代の流れを読み応答していくこと」が成功企業の方程式であります。
2. 人の道を分けるもの
では何が人の道を、あるいは会社の道を分けるのでしょうか。人は自分の好きなこと、自分の興味のあること、そして関心のあることに不思議なほどに疲れを覚えません。あれだけ体が疲労し大変でも、自分が好きで興味があること、関心があることに疲れないのです。そこに新しい道も開かれます。私はドイツで結婚し妻との間に3人の子どもが与えられました。ドイツ社会では、一般的な「カフエー・トリンケン」(Kaffee Trinken)というコーヒー(あるいはお茶)の時間があります。その時、自分の家に友人を個人的に招待する習慣があります。そこでコーヒーや紅茶が提供されますが、その家の夫人手作りのケーキが出されることが多いです。私の妻も育児と家事で多忙にかかわらず、同じように自分でケーキを焼いていました。ケーキの種類によっては時間がかかる仕事です。そこで、私が見かねてケーキを店で購入しては、と言ったことがありました。しかし、ケーキ作りが好きな人にとっては、それは無駄な提案でした。妻は家事・育児でどれだけ疲れても、自分が好きなことには力を注いでいました。
話は変わりますが、今や世界に名をとどろかせている「ヤマハ」という会社があります。ヤマハの創業者、川上源一氏の原体験の話をさせていただきます。戦後、川上源一氏は米国を視察し非常に驚いたそうです。それは余暇がビジネスになることを知り、大変ショックを受けたそうです。その後、彼はオートバイを誕生させました。静岡県掛川市に嬬恋という広大な地があり、東京ドームが36個分も入るという広さです。テニス、乗馬、ゴルフ、アミューズメント、音楽施設、そして温泉も引かれた大きな施設ができています。
これほど発展した企業ヤマハのアイディアは、創業者が米国で見た一つの視点、目の置き所により始まりました。特にオートバイの世界では、ヨーロッパの人たちにとってヤマハ製オートバイに乗ることはあこがれとなっています。私は、川上源一氏の着眼点について考えました。彼はどこに目を留めたのでしょうか。それはオリジナル性です。人がやっていることではありません。彼は個性、オリジナル性に着眼し、夢をスタートさせ成功しました。
結局のところ、私はどんなビジネスでも究極的には「個」、いわゆる人、「ペルソナ」だと思います。これが成否を分けるキーワードです。人は著名人の素晴らしい講演を聞き、ビジネス書を読み勉強しても、その人が自分なりに消化し、整理しなければ自分のものになりません。しかも、それを社会に還元することはできません。日本にある良いものを生かし、また海外にある良いものも生かし、さらに時代に合ったものをつくり出していくことが求められます。そのため、人は人生学校でさまざまな勉強をします。ある時は、情報入手をする勉強会やセミナーが活用されましょう。ある時は、さまざまな書物に目を通されるでしょう。またある時は、講演をはしごされる方もいるでしょう。しかし、ここに並行してもう一つの学び方があります。それは聖書から学ぶグローバルスタンダードです。
■ キリストの人材教育: (1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)
(12)(13)(14)(15)(16)(17)(18)(19)(20)(21)(22)(23)(24)(25)(26)(27)(28)(29)(30)(31)
◇
黒田禎一郎(くろだ・ていいちろう)
1946年、台湾・台北市生まれ。70年、ドイツ・デュッセルドルフ医科大学病院留学。トリア大学精神衛生学部、ヴィーダネスト聖書学校卒業。75年、旧ソ連・東欧宣教開始。76年、ドイツ・デュッセルドルフ日本語キリスト教会初代牧師就任。81年、帰国「ミッション・宣教の声」設立。84年、グレイス外語学院設立。87年、堺インターナショナル・バイブル・チャーチ設立、ミニスター。90年、JEEQ(株式会社日欧交流研究所)所長。聖書を基盤に、欧州情報・世界 情報、企業講演等。98年、インターナショナル・バイブル・チャーチ(大阪北浜)設立、活動開始。01年、韓日ワールドカップ宣教GOOL2002親善大使として活躍。著書に『世界の日時計』(Ⅰ~Ⅲ)、『無から有を生み出す神』『新しい人生』『愛される弟子』『神のマスタープランの行くへ』『ヒズブレッシング』、韓国語版『聖書と21世紀の秘密』、中国語版『神の聖書的ご計画』他訳書あり。