米コロラド州デンバー在住のクリスチャンライターのカール・メデアリス氏は、中東レバノン首都ベイルートで12年間滞在し、中東に関する著書を執筆してきた。中東で12年間滞在した経験を通して、同氏は米国キリスト教徒とイスラム教徒が良好な関係を築くために、米国キリスト教徒が中東世界により関心を示し、中東へ恵みを広げていく活動が大切であると指摘した。
メデアリス氏は米国と中東の両方の地域で「イスラム教徒とキリスト教徒、そしてイエス:相互理解と関係性の構築について」という著書を出版しており、同書によってイスラム教徒とキリスト教徒が互いに信仰を分かり合う重要性が認識され、高い注目を集めるようになった。その後同著を題材にしたビデオセミナーシリーズが諸教会指導者、宣教師向けに制作されるようになり、今年9月に同シリーズが公開された。
同氏は、米クリスチャンポスト(CP)の取材を通して、キリスト教徒とイスラム教徒が共に旧約聖書においては似通った信仰を持ちながらどのように良好な関係を維持していくことができるかについて語った。2001年9月11日に生じたイスラム教過激派によるテロ事件が生じてしまったからこそ、同氏はキリスト教徒とイスラム教徒がより世界平和を維持するために協調した姿勢を示していくことが重要であることを強調している。
CP: 12年間ご家族と共に中東レバノンでご生活されていたのですよね。その期間イスラム教徒とキリスト教徒の関係性について何がもっとも重要であると学ばれましたか?
メデアリス氏:イスラム教徒は私たちが彼らとともに生活した経験から言えば、とても相手に対する気配りのできる素晴らしい人たちです。レバノンでの生活では彼らの倫理的な生活に多く学ぶことがありましたし、レバノンでもう一度生活したいとも思っています。
他人をもてなし、家族を大事にする文化というものが中東社会の中には息づいています。レバノンの人々はユーモアに富み、生き生きとした生活をされておられます。レバノンの人々の多くは保守的な家族観を大事にしています。結婚は男性と女性の間になされるものとして神によって定められたものであることを信じており、妊娠中絶に関しては反対の立場をとっています。また年老いた親を特別養護施設に送るようなこともしません。
CP: 9.11テロ事件から10年が過ぎ去りました。これまでの期間において、イスラム教徒とキリスト教徒の関係性はどのように変化したと言えるでしょうか?
メデアリス氏:米国では、この10年で両者の緊張感が高まってきたと思います。キリスト教徒は、以前にも増してイスラム教徒に対する不信感をあらわにするようになってきたと思います。そのためイスラム教徒もこのようなキリスト教徒の自分たちに対する感情を不快に感じてしまっていると思います。そのためキリスト教徒がイスラム教徒に不信感を抱き、彼らの不正を告発するような活動は、双方の関係性改善の益とはなりません。悪の循環を促進させてしまっていると思います。
CP:著書の中では欧米人がイスラム教の信仰について誤解していることに関する懸念が記されてありました。しかしマスコミもまた、この様な誤解を拡散させる責任があったといえるのではないでしょうか?
メデアリス氏:もちろんマスコミにもイスラム教徒全般に対する誤解を拡張させてしまった責任があるでしょう。しかしそのようなことは何もイスラム教に関することだけではありません。マスコミはあらゆる問題に関して一般大衆に誤解を拡散させているという事もできると思います。
真実を言えば、メディアは文化を反映するものだと思います。私たちにはすでにイスラム教徒は恐ろしく、怪しく、社会の片隅でテロを起こす可能性のある人たちであるという固定概念ができてしまっていると思います。メディアがそういう固定概念を作り出したというよりは、私たち自身が既にそのように考えてしまっていることが問題だと思います。
CP:「アラブの春」運動が年々活性化していることが報道されています。米共和党大統領候補のニュート・ギングリッチ議員は「アンチ・キリストの春」を呼び起こす草の根活動が高まっているとも指摘されています。この発言に関してどのように思われますか?
メデアリス氏:ギングリッチ議員はご自身が話されている問題についてしっかりと理解されてはおられないのではないかと思います。「アラブの春」というのは、現実の認識を誤った結果生まれた名称だと思います。もし「アラブの春」という言葉をそのまま受け入れるとすると、何か温かい、中東諸国に対する素晴らしい世界がやって来るかのような印象を受けるのではないかと思います。しかしたとえばエジプトでの反政府運動は、アンチ・キリスト運動と結びつくものであると言えるでしょうか?そうではなく、反政府運動は民主主義に向けた運動であると思います。
民主主義の土台を確立し、少数派の人権や女性への投票権を認めるのに、米国でも200年という長い年月を要しました。そのことを踏まえて、今アラブで生じている民主主義を目指す活動についても、米国が恵みを与えてあげられるようになったら良いと思います。
ギングリッチ議員のご指摘について、アラブ世界はイスラム世界であり、アラブ世界を構成する人々の95パーセントはイスラム教徒です。そのためイスラム教国で反政府運動が生じて、新たな政権を握るのがイスラム教徒であること自体に関して言えば、何の驚きでもありません。その中でもハマスやムスリム同胞団、ヒズボラなどの欧米社会の政治に反対する価値観をもっている組織に対して人々は恐れの感情を抱いています。しかし彼らは西欧的価値観に反発しているのであって、アンチ・キリストであるわけではないのです。
CP:9.11テロ事件以来米政府はアフガニスタン、イラク、リビアに軍隊を派遣してきました。米政府のこのような外交政策についてどのように感じられますか?
メデアリス氏:これは失策であったと思います。米保守派の政治的見解から言えば、半分は良く半分は悪いという事が言えるのでしょう。中東諸国において米軍がテロと戦うことで、さらなるテロリストを生み出すことに貢献してしまったと思います。米軍、中東のテロリスト両方の立場を考え、公正にこの問題を考える必要があると思います。
一キリスト者の視点から言いますと、米軍が中東に派遣されたことで、個々人のイスラム教徒にイエス・キリストの存在について理解していただくのがより困難になってしまいました。米軍が中東に展開してしまった現在となっては、私は会話するすべてのイスラム教徒に対し、「どうしてキリスト教国である米国は私たちの国を侵略する決断を短期間のうちに成してしまったのか?」という質問に答えなければならなくなってしまいました。
CP:米国人が抱いているイスラム教徒に対する最も大きな誤解は何だと思われますか?
メデアリス氏:最も大きな誤解は、イスラム教徒をテロリストだと見なしてしまっていることだと思います。しかしイスラム教徒の99パーセントは徳育のある素晴らしい人たちです。だからこそ、私は米国のキリスト教徒に対し、イスラム教徒と仲良くするように呼びかけたいと思っています。そのことで、イスラム教徒に対する誤解も解けていくでしょう。相手を知ることによって誤解は解消されていくものだと思います。
CP:イエス様が今日のイスラム教徒をご覧になられたら、何とおっしゃられると思われますか?
メデアリス氏:イエス様は公的生涯を送られた期間の大部分をユダヤ人以外の人々や罪人と過ごされたことを改めて認識する必要があると思います。イエス様と同じユダヤ人、同郷の人々にご自身の存在を理解してもらうのが一番困難なことでしたが、ユダヤ人以外の別の町の人々にご自身の存在を示すことはそれほど困難ではなかったのではないかと思います。イエス様が現代のイスラム教徒を見られるなら、当時イエス様がサマリヤの女(ヨハネ4章)に接されたのと同じようにイスラム教徒を扱われるのではないでしょうか?
CP:今後のキリスト教徒とイスラム教徒の間でどんなことが生じていくと期待していますか?
メデアリス氏:キリスト教徒とイスラム教徒は互いに平和的な対話をすることを学んでいかなければならないと思います。イエス様に従う人間としてそのような姿勢を見せることが大切だと思います。イエス様の行いに忠実に振る舞うことで、イスラム教徒たちにも恵みを与えることができ、神学的見解が異なるからといって論争せずに済むようになるのではないかと思います。互いの共通性を見出し、互いの壁を結びつける橋を形成していくことから始めるのが大切だと思います。
これからの両者の関係性については私の心は希望に溢れています。と言いますのも、イスラム教国がこれまでの歴史になくイエス様の道に対して開放的になってきているからです。まだその状態が欧米キリスト教諸国と同程度とまでは言い難い状況ではありますが、このような社会環境を通して、キリストの恵みをイスラム教国へ降り注ぐ余地が広まってきていると言えると思います。
私たちがまずイスラム教徒に対する否定的な感情を取り払うことが必要だと思います。もし典型的なイスラム教徒の方に、キリスト教について尋ねるなら、「欧米クリスチャンは神様の使命を知らず眠りこけており、暴飲暴食をし続け、両親に対する敬意を全く示していません」と答えるのではないでしょうか。彼らは腐敗したキリスト教国の社会問題を良く認識しています。偏見や誤解はお互いに高まっており、それが互いの認識に悪影響を与えてしまっていると言えるでしょう。
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