米国でモルモン教の家庭で育てられ、その後聖書的なキリスト教の信仰を信じ、モルモン教からキリスト教に改宗した、米ユタ州北部にある福音派の教会アルペン教会牧師のロス・アンダーソン氏は、キリスト教徒らに「モルモン教会をカルトと糾弾するのではなく、より本質的な問題に焦点を置いて話し合っていくべきです」と呼び掛けている。
同氏は「モルモン教と伝統的なキリスト教会の間に神学的に大きな相違があることは明白です」と述べ、「カルト」という言葉はモルモン教徒の有り様を正しく記述する言葉ではないとの見解を示した。同氏は米ゾンダーバン社から出版された『隣人としてのモルモン教徒』(原題:Understanding Your Mormon Neighbor)という自書の紹介を行う中でモルモン教徒との隣人としての建設的な付き合い方を提示した。
アンダーソン氏は「私たちはモルモン教徒について話すときに、現実的な社会の問題に対していかに取り組んでいるかについてよりも、その団体の『レッテル』にこだわりがちになってしまってはいないでしょうか。いつも『クリスチャン』という言葉の定義ばかりにこだわり、そして互いの信仰の過去の面ばかりに固執してしまってはいないでしょうか」と述べ、必ずしもモルモン共同体そのものに同意しないとしても、その共同体に属する個々人に対してまでそのレッテルでもって付き合いを否定するべきではないと指摘した。
アンダーソン氏は「モルモン教徒たちはそれぞれ『キリスト教徒』のように生活していると思っており、それぞれ倫理的な視点をもっています。しかし伝統的なキリスト教徒は神学的な見解の相違だけで彼らの生き方そのものを否定してしまいがちです」と述べた。また伝統的なキリスト教徒がモルモン教徒と見解を分かち合えていない部分が存在していることを指摘した。
アンダーソン氏は米クリスチャンポスト紙(CP)の取材に対し、「モルモン教徒と話をするときに、福音主義キリスト教徒は、彼らが信じるべき事柄を指摘する代わりに、まず彼らから何を信じているのかを問うてみる姿勢が大切です」と述べた。
アンダーソン氏自身もモルモン教徒であった時代にキリスト教徒の友人からそのような問いかけをされ、その後でその友人にモルモン教とキリスト教の主な違いを説明された後、説明に納得して福音主義キリスト教徒へと改宗することができたのだという。
他にも米アイダホ州に在住する元モルモン教徒で現在キリスト教徒となった女性のベツ・ジョンストンさんは米CPに対し、「モルモン教徒と真っ向から議論して打ち勝とうとする戦略は良くありません。私はこれまでモルモン教の信仰を持つ人々ととても多くの時間を費やして議論するたくさんのキリスト教徒の姿を見てきました。モルモン教の信仰について議論の的となっている『一夫多妻』、『黒人問題』『聖職者となる権利』『血の贖い』などについて非常に熱心に議論する姿を見てきました。それらの事柄は確かにモルモン教とキリスト教の異なる点となる重要な事柄ではあるのですが、それらの事を議論し、相手の信仰を否定することは、相手をモルモン教の信仰から外れた道へと促すことにはなるでしょうが、(議論で打ち負かされた相手である)キリスト教会に結びつき、キリストとの関係を深めるようになってもらえるかどうかは疑問です」と述べている。
アンダーソン氏は新著でモルモン教の生活や文化をモルモン教徒ではない人々に伝え、福音主義キリスト教徒らが過去のモルモン教徒との付き合い方とは異なる友好的な付き合い方ができるように促している。
元モルモン教徒であるアンダーソン氏はモルモン教徒に対して敵対心というよりもむしろ同情心を抱いており、「私の新著はモルモン教に敵対する内容の本ではありません。モルモン教の文化や価値観が、ただ共同体の内輪にとどまるだけではなく、他の人々と共鳴できることを願って書いた本です」と述べている。同著では米共和党大統領候補のひとりでモルモン教徒のミット・ロムニー議員の信仰についても一章を割いて記述されている。