聖書に「モルモン書」が付け加えられたキリスト教系新宗教であるモルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会)の第181回年次総会が先週末、米ユタ州ソルトレイクシティで行われた。
モルモン教の年次総会では毎年のようにキリスト教徒の集まりから、「悔い改めよ」などとモルモン教徒に呼びかけ、モルモン教の教義の過ちを批判する団体によるデモが行われている。時には一部キリスト教徒がモルモン書を地面にたたきつけたり、侮辱的な言葉を浴びせるなどの行為も行われ、問題視されている。
今年度のモルモン教年次総会では、モルモン教徒に対するキリスト教会による新たなアプローチが見られた。イエスキリストの教えに従って、モルモン教徒に対し敵意ではなく、愛を示すため、モルモン教徒と抱き合うという行動を見せ、現地で注目が集まった。
この活動を推進したユタ州南ヨルダンのワン・コミュニティ・チャーチ牧師のチャールズ・ヒル氏は「イエス様はサマリヤ人の井戸で叫んだり、自分が真理であるという徴をことさらに見せようとはされませんでした。私たちは互いに愛し合うために呼ばれた者です」と述べている。
ヒル牧師は2009年にユタ州南ヨルダンの教会に転任した。同地域はモルモン教徒が多数を占めている。ヒル氏は自身に課された使命はモルモン教徒を「打ち負かす」ことではなく、ただ純粋にイエスキリストを必要としている人たちに手を差し伸べることであると自覚したという。
ヒル氏は過去2年間にわたり、自宅をモルモン教徒の隣人たちに開放するなどして、多くのモルモン教徒と友好関係を築いてきた。ヒル氏はモルモン教徒らと友好関係を築くことを通して、彼らを改宗させようとしているのではなく、ただ単純に彼らを愛するという動機に基づいてモルモン教徒との友好関係を築いてきたという。
2日はモルモン教徒の年次総会初日であり、ユタ州ソルトレイクシティには多くのモルモン教徒が世界中から集まった。ヒル氏と教会員はその日程に合わせてソルトレイクシティにかけつけ、集まっているモルモン教徒に純粋に愛を届けるという試みを実践した。
彼らは「暴力ではなく抱擁を」をスローガンに掲げ、キリストにある同じ兄弟姉妹から誹謗中傷を投げかけられたモルモン教徒らを腕いっぱいに包みこんで抱擁することで、モルモン教徒らに純粋に愛を届けた。
またモルモン教徒らに誹謗中傷のメッセージを投げかけるクリスチャン活動家らに対してヒル氏は「親愛なる暴徒たちへ-より深い関係構築を模索しているキリスト教徒とモルモン教徒の間に『くさび』をもたらす行為を止めてください。あなた方の多くはソルトレイクシティ出身者ではないでしょう。もしあなたがたが本当にモルモン教徒を知っており、彼らを愛するなら、この様な誹謗中傷行為はできないはずです。そしてこの都市に住むキリスト教徒の皆さまには『主に召された50人の勇士』として毎週主日に礼拝をささげていることには確かな意味があることを自覚してください」と述べている。
モルモン教徒の信徒数は米国および世界中で増加傾向を示している。2日の年次総会によると、2010年のモルモン教徒総数は1,410万人に達したという。
モルモン教指導者らも、キリスト教指導者らに劣らず貧しい人たちへの奉仕や支援活動を強調している。年次総会の報告によると、東北大震災の支援活動においても4千人以上のモルモン教徒のボランティアが活動しているという。
ヒル氏はモルモン教と福音主義キリスト教との教義が根本的に異なることは承知しており、隣人であるモルモン教徒らが同氏の教会を訪れ、イエスキリストの救いにあずかるようになることは歓迎している。
しかし、同氏はモルモン教徒らを「改宗させる対象」として扱うことには反対しており、「イエスキリストは『恐ろしい戦術によって彼らに勝利したり、暴徒のように振る舞うことで自分たちの意に反する人々と戦う』ようなことを勧めてはいません。モルモン教徒らはむしろイエスキリストの御言葉にある『隣人をあなた自身のように愛しなさい』という愛を実践することで、私たちが『イエスの弟子』であることを知るようになるでしょう。律法全体と預言者とが、『神を愛すること』『隣人を自身のように愛すること』の二つに戒めにかかっていると述べられている通りです」と述べている。
ヒル氏は相手がどのような人であっても、イエスキリストのこの二つの戒めをそれぞれのクリスチャンが自身の生活環境の中で実戦して行くことを奨励しており、「私たちが信仰に反すると思われる事柄に対し、抗議活動を行っていくよりも、愛と福音を述べ伝えるために存在しているということを他者に示していくほうが、キリスト教の発展につながるのではないか」と提案している。