「賛美できることは本当に幸せ。どんなにつらいことがあっても、心はいつも不思議と平安なんです」。教会奏楽者として25年以上奉仕するかたわら、養護学校や老人ホームなどの福祉施設を中心に国内外で演奏活動を展開するピアニストの半谷芳子さん。
クリスチャンになったきっかけは、自宅で開いていたピアノ教室でのこと。生徒の一人からしきりに誘われて行った教会で奏楽の奉仕を頼まれて以来、毎週の礼拝に顔を出すようになった。教会に通い始めてわずか数カ月で受洗。家族に何人も住職のいる熱心な仏教徒の家庭だったが、クリスチャンになることに両親の反対はなかった。教会にはとても寛容だったという。
クリスチャンになるまでは、大きな挫折も苦しみもなく、順風満帆な人生を送っていたという半谷さん。しかし苦難は、クリスチャンとなった半谷さんを突如襲い始めた。「当時を振り返ると、教会という建物に救いを求めていました」。教会での奉仕が重なり、気が付くと、子どもといる時間が十分に取れなくなっていた。子どもが問題を起こすと、さらに教会に行く回数を増やした。教会で祈るためである。「でも答えは見つからず、いつも心は不安でした」
そんなある日のこと、息子から一本の電話が入った。車で事故を起こしたのだという。ガードレールを何メートルも押し倒すほど衝突を続け、車は大破。しかし、乗っていた本人は奇跡的にまったくの無傷であった。電話越しに、ガードレールの損害金が発生したことを詫びる息子に半谷さんは、「そんなことはどうでもいいの。あなたが無事でいてくれさえすればいいの」と必死で声をかけ続けた。それ以来、息子の非行はぴったりと止んだという。
「いつもさびしかった」。しばらくして口を開いた息子の言葉に、はっとさせられた。「教会は建物じゃないんだと気づきました。神様は他のどこかではなくて私の内に住んでくださっていたのです」。教会の奉仕に追われ、子どもに十分な愛を与えきれなくなっていた自分に気づかされた。「一生懸命を履き違えていました」。いまでは、息子も一緒に教会へ行き、コンサートでは裏方を手伝ってくれている。音楽を通して一緒に過ごす時間が持てるようになった。
大きな問題に直面したときにも、不思議と心に平安と感謝の思いがわいてくるようになったという。すべては神の計画の内にあり、最後には、神がそれを必ず益としてくださると信じているからだ。苦しみを経験したからこそ、同じように苦しむ人々の悩みを聞いてあげることができる。「神様のご計画は偉大」と半谷さんは語る。
人生の苦しみを知れば知るほど、イエス・キリストの十字架の苦難について深く考えるようになった。「私のためにイエス様という尊い方の命が犠牲にされたのです。その重みを考えるとき、涙なくして主を告白することはできません」。直前までどんな大きな悩みを抱えていたとしても、賛美の演奏を始めれば、心はいつも平安になる。「演奏するのは私ではありません。聖霊が導いてくださいます」。そのとき、賛美を聴く人々のうちにも神が働きかけるのだという。「どんな大きなリサイタルを成功させるよりも、演奏を聴かれたお一人の方が涙を流され、心癒されたときの喜びに勝るものはありません」
最近も大きな試練を通して、神が生きて働いておられるという確信を強めたという半谷さん。「神様に愛されていることを知るという喜びは、お金で買えるものではありません。この喜びを、賛美を通してもっと多くの方々に伝えていきたいのです」
◇はんがい・よしこ:東邦音楽大学ピアノ科卒業。教会奏楽者として25年以上の奉仕に携わっている。2000年にはオーケストラと共演し、ミュージカルのバックを務めた。福祉施設を中心に国内での演奏活動を続けるかたわら、アメリカや中国などへの海外演奏も数多くこなしている。CD「PARTNER1」「小さなちいさな思い ささやかな祈り あなたに」発売中。