英南部ボーンマスの中絶クリニックの近くで数分間黙祷をささげたことが、公共空間保護命令(PSPO)に違反するとして罪に問われていた退役軍人で2児の父親であるアダム・スミスコナーさん(51)に対し、ボーマンス治安裁判所は16日、有罪判決を言い渡した。
判決は執行猶予付きで、スミスコナーさんは今後2年間、何らかの罪で有罪判決を受けた場合にのみ刑が科されることになる。これに加え、スミスコナーさんは9千ポンド(約170万円)の裁判費用の支払いも命じられた。
判決を受け、スミスコナーさんは次のようにコメントした。
「今日、裁判所はある種の思考、つまり無言の思考が英国では違法となり得るという判断を下しました。それは間違っています。私は、心の中で神に祈りをささげただけだったのに、それで犯罪者として有罪になるのでしょうか」
「私は、この国が築き上げてきた基本的な自由を守るために、予備役で20年間軍務に就き、その中にはアフガニスタンでの任務も含まれていました。医療従事者および教会ボランティアとして、今も奉仕の精神を持ち続けています。英国で思想犯罪が起訴されるまで、私たちの自由が侵食されている現状を目の当たりにして、私は非常に心を痛めています」
ボーンマス・クライストチャーチ・プール(BCP)評議会は2020年10月、中絶クリニックのあるボーンマスの一部地域を対象に、祈りを含め、いかなる手段によっても、中絶サービスに関連する問題に関して抗議したり賛否を表明したりすることを禁止するPSPO(英語)を発令した。スミスコナーさんはその翌月に対象地域で黙祷をささげたことで、PSPO違反に問われた。
スミスコナーさんを弁護したキリスト教法曹団体「ADFインターナショナル」英国支部(英語)のジェレマイア・イグヌボル上級法律顧問は、「非常に大きな影響を持つ法的転換点」だとして、次のように述べた。
「今日、ある男性が有罪判決を受けましたが、それはイングランドの公の通りで彼が考えたこと、つまり神への祈りの内容を理由としたものでした。言論や思想の自由という基本的自由をないがしろにするという点において、英国はこれ以上ないほど落ちぶれてしまいました。私たちは判決をよく検討し、控訴するかどうかを検討しています。人権は全ての人に与えられているものであり、中絶に対する考え方とは関係ありません」
今回の判決は、10月31日にイングランドとウェールズの全ての中絶施設に「緩衝地帯」が設けられる数週間前に下された。英議会は2023年、中絶施設から半径150メートル以内を緩衝地帯として定め、そこでのプロライフ(反中絶)活動を禁止することを、公共秩序法の一部として可決した。違反した場合、上限なしの罰金刑に処される可能性がある。
イグヌボル氏は、スミスコナーさんのように有罪判決を受ける人が今後多く出るのではないかとして懸念を示した。
「合意に基づく会話や黙祷を行う権利は、思想と言論の自由に関する国際法によって保護されています。しかし、法律の明確性が欠如しているため、スミスコナーさんのような多くの一般市民が、神への黙祷という単純な行為によって尋問を受けたり、起訴されたりする可能性さえあるのです。これは英国の自由にとって重大な局面であり、国民はこれを軽視してはなりません」
また、保守党のエドワード・リー議員は次のように述べた。
「2024年の英国において、心の中で静かに祈ったという理由で誰かが裁判にかけられることがあるなど、恥ずべきことです。残念ながら、英国ではキリスト教信仰の表明に関して、言論の自由が脅かされるケースが繰り返し発生しています。心の中で静かに祈りをささげることは、犯罪行為であるはずがありません。政府は、思想の自由は基本的人権として保護されていることを早急に明確にする必要があります」