犯罪に手を染めていたピート・ファン・フフトは、白昼堂々と警察の特殊部隊に逮捕された。彼は言う。「俺は神と関わりたいなんて、今までの人生でこれっぽっちも思っていなかった。だがそんな俺の前に、神が現れてくれたんだ」
ピートは、犯罪行為が当たり前の家庭で育った。彼に言わせれば、それは「ガキの頃から染みついていた」というのだ。ピートは、犯罪に手を染めれば簡単に金稼ぎができると分かると、それを真似し始めた。
「13歳の頃に、既に組織的な自転車泥棒をしていたし、その後は空き巣狙い、強盗、麻薬取引へとエスカレートしていった。俺は若かったが、警察にマークされるようになったんだ」。彼を取り巻く事態は恐ろしく悪化していた。そしてついに、法治の手が、彼の両腕にかせをはめることになった。
「俺はその日、妻と2歳の子どもとレストランで食事をしていた。疑心と警戒心にさいなまれていた俺は、常に窓の外を気にしていた。案の定、俺を逮捕するために警察の特殊部隊が突入してきたのさ。でもそれに気が付いたときには、手も足も出なかった。結局俺は家族の前で拘束され、警察署にしょっ引かれたってわけさ。動かぬ証拠がいくらでもあった俺だ、それで判事は俺を拘置所送りにしたんだ」
「裁判が始まると、個々の罪状が多すぎて、とても1日じゃ処理しきれなかった。数日はかかったね。検察は10年の懲役を求刑したんだ。俺はショックを受けたよ。たが数日後に下された正式な判決は、それよりももっと重い11年の懲役だった。当時俺は23歳で、新婚で2歳の子どもがいて、小さな家があった。心底動揺したね」
人生が暗礁に乗り上げ、難破の危機に遭ったとき、ピートの妻は神を信じるようになっていた。そして、彼女は彼のために祈っていたのだ。
「まさに妻が祈っているその晩、俺は幻を見たんだ。大きな光が俺を覆い、それまで経験したこともない愛を感じたんだ。尋常じゃないことが起きていることは分かっていたが、俺は落ち着きを取り戻して、置かれている状況を受け入れた」
「翌朝、妻に電話をかけ、その夜に起こったことを話すと、彼女はすぐにこう言ったんだ。『ピート、それは神様からのものよ! だってその時間、私はあなたのために祈っていたんですもの!』ってね。そう、こんな俺のために妻は祈り、そして神自らが近づいてきてくれたのさ!」
「俺は刑務所のチャプレンをしていた牧師のところに行って、聖書が必要だと言った。あいにくその時、囚人に渡す聖書は切らしていたんだが、牧師は自分の聖書をくれたんだよ。俺の行動に驚いた刑務官たちは、俺にこう聞いたんだ。『ピートが聖書を読みたいだって? お前に一体何が起きたというんだ?』とね。で、俺は喜んでこう言い返してやったさ。『神に出会ったんだよ!』ってね」
結局、控訴審で2つの罪状が取り下げられ、ピートの刑期は7年になった。
「俺は大麻を吸う代わりに、ベッドの横に聖書を置いて神を求めるようになったのさ。最悪の人生を突っ走っていた俺がこんなに変わってしまったもんだから、俺は学校で話をするよう頼まれるようになったんだよ。この俺が学校で話すって?! 神のなさることはぶっ飛んでいると思わないかい?」
釈放されてすぐ、主はピートのために特別な出会いを用意してくださった。「一人の黒人牧師が俺の家の前を通りかかったときだった。俺はちょうど家の前にいたんだが、彼は俺を見るなり、こう言ったんだ。『神について、君と話をする必要がありますね』ってね。で、その話は1時間も続いたんだ。家族は窓越しに俺たちが話しているのを見ていたよ。牧師との会話は俺の心に触れ、俺は彼の教会に通い始めた。今もそこに行っている。俺は、今までの人生で関わってきた悪い連中との関係をスッパリ切って、その代わりにいろいろな人々と福音を分かち合い始めたんだ。本当に神は俺に素晴らしいことをしてくれたんだ!」
最悪の人生を転じて、福音の証しをする命の伝道者へとピートを変えた神の御業をたたえよう! 聖書は言う。「彼らは涙の谷を過ぎるときも、そこを泉のわく所とします」と(詩篇84篇6節)。
転落する人生の最悪な終着点ともいうべき刑務所で、もし人が神と出会うなら、そこはもはや「最悪」の場所ではなく、「命の泉の湧く所」なのだ。ピートの人生に起きたこととは、まさにそういうことだ。
オランダのような「かつてのキリスト教国」といわれる国でも、神のともしびはいまだ消えず、確かに人々の間で燃え続けている。たとえそれが、今はどのような小さな火であったとしてもだ。たった一本のロウソクの火が、山全体を大炎上させることもあるということを、私たちは知っているのである。
オランダの小さな火が、国全体の霊的復興につながる「大炎上」になるよう祈っていただきたい。
■ オランダの宗教人口
プロテスタント 18・3%
カトリック 25・7%
ユダヤ教 0・2%
イスラム 5・5%
無神論 46・9%
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