1. はじめに
ある時、急にシジュウカラの甲高い鳴き声が起こると、一斉に仲間たちが飛び去りました。その上空にはタカが舞っていました。それを見たある研究者は、この鳥は「言葉」を持っていると直感し、研究を始めました。
それ以来、現在も長く緻密なフィールドワークを続けておられます。「ジャージャー」は蛇がいることを表すなど、さまざまな鳴き声を使って「警戒せよ」「集まれ」だったり、いい物を見つけたら「ここだよ」と教えたりするといいます。
植物ではどうでしょうか。ある木にガの幼虫が群がり、日を追うごとに葉が食べられていきました。ふんだらけだった株元が、ある日幼虫の死骸でいっぱいになっていたという話を昆虫生態学で聞いたのが、五十数年前です。自分で動くことができない植物に与えられた自己防衛の姿に感動したことを昨日のように覚えています。
2. 昆虫と植物
春になると、モンシロチョウやコナガがキャベツに飛んで来て卵を産み、それぞれの幼虫は好んで葉を穴だらけにします。農家にとっては頭が痛いことです。
キャベツは4種類の香りを放ちます。幼虫に食害されたキャベツも同じ4種類の香り成分を出しますが、なんとその成分の割合が異なるといいます。しかも、例えばアオムシとコナガ幼虫の両方に食われた場合も同じ成分を出しますが、それぞれ単独で食べられたときとは成分比が異なるのです。4種類の成分とはキャベツ特有のみどりの香り、硫黄化合物、モノテルペン、セスキテルペンです。
コナガに食われた株に間もなくコナガサムライコマユバチが飛来して来ます。コナガの天敵です。その蜂は留まるとすぐコナガの幼虫に卵を産みます。卵はふ化し、さなぎとなり、羽化して蜂となります。その間、全てのことは幼虫の体の中で起こります。外部からは全く分かりません。こうしてキャベツは、間接的にコナガからの被害を避けるのです。さらに不思議なからくりがあります。
両者に食われた株と、コナガのみに食害された株とがある場合には、このコナガの天敵は圧倒的に、コナガのみに食べられている株に来るといいます。これはコナガサムライコマユバチが次世代のために、間違ってアオムシに産卵しないよう、さまざまな香りを嗅ぎ分けているのです。
3. 植物と植物の会話
モンシロチョウの幼虫に食われたキャベツは特有の香りを出します。食害の程度に関係なく、その香りを発散させます。食害のない健全な株がその香りを受け取ると、その健全株の遺伝子レベルにおいて、被害を受けたときに発現する防衛遺伝子が発現するといいます。
このように、アオムシの被害株の特別な香りを受け取り、自らその香りを出してアオムシを寄せ付けないというやりとりが行われているのです。
聖書は語ります。
昼は昼へ話を伝え
夜は夜へ知識を示す。話しもせず 語りもせず
その声も聞こえない。(詩篇19:2、3)
人の目に見えず、人の感覚では捉えられません。ですが、彼らは見事な会話をしているのです。植物界、昆虫界に与えられた、創造者の緻密な知恵です。
地は植物を・・・生じさせた。神はそれを良しと見られた。(創世記1:12)
あなた(主)は知恵をもってそれらをみな造られました。(詩篇104:24)
天は神の栄光を語り告げ
大空は御手のわざを告げ知らせる。(詩篇19:1)
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