シリア語聖書との出会いは、20年以上前にさかのぼります。骨董祭でポケット版のシリア語新約聖書(写真、表紙)を安価で購入したときでした。ページを開くと、鉛筆でシリア語聖書と書き込まれていました。
書体は、いわゆる東方書体(かつてはネストリウス式書体と呼ばれた)でした。その後、大秦景教碑のシリア語の解読、中央アジアや中国各地で発見されたシリア語と十字の刻まれた信徒墓石の解読を試みようと思い、再び取り出して学び始めました。大秦景教の研究には、シリア語と漢文、東方教会史を学ぶことが大事であることが分かり始めました。
シリア語を理解する一番良い方法は何か。それは、シリア語話者がいる現地に行き、生で聞くことと考えましたが、無理なことから、いろいろな方法で学ぼうと試みました。シリア語聖書を和訳することを考え、全てをご存じで聖書の著者である神様に知恵を求めて祈りつつ、シリア語学者の方々からも教えられながら学び始めました。
最初に手にしたシリア語聖書の表紙と和訳
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主イエスが復活されて昇天後、イエスの使徒たちや70人の弟子たちは、イエスの命を受けて東西南北にグッド・ニュース(福音)を広めていき、多くの信徒が起きていきました。特に、シリア語を使った東方教会の共同体は、バイブル・メシアロードにより、シリアのエデッサ(現在のトルコのウルファ)を拠点として東方のペルシア、中央アジア、中国へと宣教しました。南インドにも使徒トマスらの働きにより伝わりました。
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現在も使徒トマス教会の礼拝では、シリア語が使われています。そこを見学する機会が与えられ、当時の使徒トマス神学校の校長から説明を聞いて学んだことを覚えています。
シリア語はヘブル語などのセム語群に属し、アラム語の一種です。エストランゲロ書体、東方(ネストリウス式)書体、ヤコブ派の西シリア書体の三書体があります。それぞれ子音や母音の表記も少し異なります。それを自分の学びのために、一覧表にまとめました。シリア語聖書はペシッタ版です。ペシッタとは簡体、直訳の意味で、ヘブル語聖書からの訳です。
このように、一覧表にしてみると違いが分かります。大秦景教碑のシリア文字は、エストランゲロ式書体で書かれていることも分かります。
作成したシリア文字の一覧表
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シリア語の一例として、マタイの福音書5章14節部分の三書体を紹介します。ギリシャ語や英語のように左から右に書き読みするのでなく、ヘブル語と同じく右から左に書き読みします。
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次の写真は、南インドにある使徒トマス神学校の礼拝堂に設置されていたものです。上は「預言者モーセ」、下は「使徒パウロ」とエストランゲロ式書体で表記してあります。(つづく)
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※写真は筆者が撮影。
※ 参考文献
『景教—東回りの古代キリスト教・景教とその波及—』(改訂新装版、イーグレープ、2014年)
『Robinson's Paradigms and Exercises in Syriac Grammar』J.F.Coakley, Oxford University Press, Revisions 2013
『A Compendious Syriac Dictionary』J.Payne Smith, Wipf and Stock, 1999
その他、シリア語聖書や関連する幾つかの和洋書を参考にしている。
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