ニューヨーク在住の打木希瑶子と申します。20年以上、ゴスペル音楽プロデューサーとして活動していますが、2年前から続くコロナ禍のため、現在は開店休業状態。2020年秋からニューヨークにあるキリスト教主義のナイアック大学で心理学専攻の学生をしています。このシリーズでは、今までとは違う環境でニューヨークの生活を送る中、58歳の私がクリスチャンとして気付いたことを書いていきたいと思っています。第1回はコロナ禍について。政治、経済、文化など、さまざまな分野で「世界の中心地」と形容されるこの都市がコロナ禍でどう変化したのか。ニューヨーカーの生活の一場面や、コロナ禍にも負けず「大改革」をして福音を伝え続けている教会の姿などをご紹介します。
世界最大の感染地→今はマスク着用、接種証明提示の義務化も撤廃
ニューヨークで最初のコロナ感染者が出たのは2020年3月1日。その後、ニューヨークは世界でも最も感染被害がひどい地域の一つとなりました。私自身も4月に感染。「あれだけ注意していたのに」と、最初はショックでしたが、「これも神様が何か私に伝えたいのであろう」と受け止め、一人で隔離生活。味覚や臭覚の障害、軽いせきは残ったものの、約1カ月後にはほぼ回復することができました。
2021年は、この100年に一度といわれるパンデミックが収束する気配のないままスタートしました。しかし、春にワクチン接種が始まると、ニューヨーク市内には安堵(あんど)の空気が急に広がりました。それまでに3万人を超える死者、多くの重症者を出していたニューヨークでは、市民が積極的にワクチンを接種。2021年末までに、1回以上ワクチンを接種した人は8割を超え、2回接種済も7割を超えるほどでした。早くから、ワクチン接種証明の提出を職場や学校、レストランなどで義務付けるようになり、野外イベントも各地で開催されるなど、少し活気が戻ってきました。
当時は私が通う大学も、キャンパスに来る人は全員、ワクチン接種証明を事前に提出するか、PCR検査の陰性証明を毎週提出する必要がありました。レストランで飲食する場合も、入り口でワクチン接種証明を見せる必要があり、人気店は、店員が入り口で簡易検温機を使って客の体温を測り、名前と連絡先を書かせるところもありました。自分の店からコロナ感染者が出れば、しばらく休店にしなくてはならず、これはレストラン側の防衛策として当然の措置といえます。
しかし、2022年3月からは、マスク着用やワクチン接種証明提示の義務化は撤廃されました。私が通う大学も、現在は自由に出入りすることができます。ただ、私は今も恐ろしくてマスクは外せません。また、マスク着用を義務付けている店や教会は今もあります。
礼拝堂がテレビ局のスタジオに!?
今はかなり規制が緩和した状況となりましたが、教会はこの2年間、これまで通りの礼拝をすることはできず、どの教会も、ある意味生き残りをかけて、さまざまな工夫を凝らしてきました。そうした中、今回ご紹介したいのは、米国を代表するゴスペルアーティストで牧師でもあるドニー・マクラーキンの教会「パーフェクティング・フェイス・チャーチ」です。マクラーキン牧師は、グラミー賞など米国の名だたる音楽賞を幾つも受賞している有名アーティストです。そのため、彼の教会の礼拝は、高い音楽クオリティーが何よりも特徴です。毎週の日曜礼拝には、多くの人が有名アーティストの歌声を聞きたいと集まっていました。しかしコロナ禍により、以前のように多くの人を教会内に入れることはできなくなりました。
マクラーキン牧師の教会は、以前から礼拝のネット配信も行っていましたが、それはあくまでもサブ的な役割のものでした。しかし、このパンデミックが想像以上に長引くと判断したマクラーキン牧師は、早々に教会の改装工事を開始。これまでのような集会型の礼拝ではなく、ネット配信がメインになるような礼拝スタイルを考え、文字通りの「大改革」を行ったのです。
改装完成後、私は礼拝堂に入るなり、びっくりしました。そこはまるで、テレビ局のスタジオのようになっていたからです。プロ仕様の音響・照明機材が設置され、教会の礼拝堂というイメージはまったくありませんでした。ステージは以前の1・5倍ほどの広さに変えられ、シンガーやミュージシャンたちがソーシャルディスタンスを確保できるように配慮されていました。また、ステージ前にもフラットなスペースが設けられていて、プレイズダンスをしたり、クワイアがパフォーマンスをしたりできるようになっていました。もちろん、そのスペースは椅子を並べることもできるフリースペースで、ある程度の人数を収容することもできます。改装された礼拝堂から配信される映像のクオリティーは非常に高く、まるでテレビ番組を見ているかのようです。
コロナ禍の中、多くの教会が礼拝をネット配信して問題となるのは、映像や音のクオリティー。特にコンテンポラリーゴスペル音楽はマイクの音調整が難しい。音響担当者は教会内の音調整だけでなく、配信上の音調整も考えなくてはなりません。生で聞いているときは問題なかった音楽でも、配信すると、音のバランスが悪く音楽レベルが下がって聞こえます。実際、コロナのためネット配信のオンライン礼拝しかできなかった期間に、礼拝参加者を失った教会は多く、現在、多くの教会が献金の減少で運営が厳しくなっています。
オンライン礼拝のメリットは、ネット環境さえあれば、誰もが手軽に参加できることです。また、録画が残されていれば、時差や各自の都合を気にすることなく、世界中の礼拝を見ることができます。私も、日本の教会のオンライン礼拝を拝見することがあります。これはまさに、テクノロジーを駆使した新たな礼拝スタイルだと思います。
コロナ禍に新イベント「キングダムコール」
マクラーキン牧師の教会では、献金はほとんど「Givelify」というオンラインサービスを通して行われています。もちろん、昔なじみのチェック(小切手)を郵送する人もいます。また、マクラーキン牧師は礼拝だけでなく、音楽イベントやバイブルクラスも、コロナ禍の中、オンラインで続けています。イースター集会、夏のアウトドア集会、クリスマス集会、年越し集会などの教会行事も、オンライン化することで例年通り継続しています。
2021年秋には、「キングダムコール」という新しい音楽イベントも開催しました。このイベントでステージに立つのは、教会メンバーではなく、一般公募してオーディションを通過したシンガーやミュージシャンたちです。年齢や性別、経験を問わず、音楽奉仕活動に熱心に取り組む実力者たちをマクラーキン牧師自らが選びました。事前に無観客で収録のみを行い、その後配信するというスタイルです。ラジオ局ともタイアップしていました。私はマクラーキン牧師から取材許可をいただき、参加させてもらったので、参加者の声を一部ご紹介したいと思います。
ジョニー・ウィンブッシュ(30代男性):コロナ禍で、私は1年以上ずっと自分のギフト(声)を使う機会が与えられず、途方に暮れていました。そんな時にオーディションの情報を見てすぐに応募しました。
ケイラン・ブラウン(20代男性):私の情熱は、いつも歌うことにありました。このイベントでドニー牧師や他の人たちが、どのように主のための働きをしているのかを学んでいます。
ディアンドラ・ジョセフ(20代女性):このイベントにはさまざまな年齢の人が参加しています。他の優秀なミュージシャンたちと一緒にイベントに参加することは、自分の成長につながると考えました。
また、マクラーキン牧師の実妹であるアンドレア・マクラーキン・メリニさんは、「このイベントの最大のメリットは、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが声を一つにして主を賛美できることです。私たちは皆、神の国(キングダム)の子どもたちですから!」と話してくれました。
私は、このキングダムコールを取材しながら、参加者たちを使徒パウロの姿と重ねていました。どんな状況になろうとも、福音を伝え続けるのだというパウロの強い姿と彼らが重なったのです。コロナ禍の中、リハーサルに何度も参加するのは簡単ではありません。マクラーキン牧師の教会は、鉄道や車を使わなければ通えないニューヨークの郊外にあるからです。また、若い人たちの姿が多かったことに希望を感じました。もしかしたら、若い人たちはこうした機会を探しているのかもしれません。
マクラーキン牧師はイベントの趣旨について、こう語りました。
「コロナ禍で離ればなれになったクリスチャンたちが、音楽を通して一つになれたら、素晴らしいだろうと思いました。教会によっては、活動がほぼ休止状態になっているところもあります。音楽の才能を天から与えられた人たちが、そのギフトを使える場所を失い、無力感を感じています。隔離されるのではなく、コロナ禍だからこそ、教会同士が手を組み、協力し合うべきです」
マクラーキン牧師の言うように、多くの人がコロナ禍の中、虚無感を感じたと思います。また今も、その影響を受けている人はいると思います。しかしながら、こんな時だからこそ、私たちは知恵を出し合い、助け合い、そしてパウロのように諦めることなく福音を伝えるべきなのではないでしょうか。
キングダムコールは、この夏にCDをリリース予定です。また、秋からは米国内・海外でツアーが始まる予定です。さらに、感染状況が落ち着いていることから、マクラーキン牧師の教会は今年、イースター集会をオンラインではなくスタジアムで開催するそうです。状況は今後も変わっていくと思いますが、コロナ禍の教会の様子は、このコラム連載中に幾つか取材する予定です。大きな教会から小さな教会まで、さまざまな教会の取り組みをお伝えしたいと思っています。(続く)
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