再犯防止に向けた取り組みに社会の関心が高まる中、2016年12月に施行された再犯防止推進法が地域に与えた影響について当事者や実務家、研究者が話し合う公開研究会が1月27日、オンラインで開催された。「受刑者のためのミサ」を開催するなど、キリスト教の精神に基づいて出所者の社会復帰を助けるNPO法人「マザーハウス」理事長の五十嵐弘志さんは、再犯防止について考えるにあたり、「まずは当事者の考えや気持ちを社会の人たちに聞いてほしい」と訴えた。(関連記事:受刑者のためのミサ、菊地功大司教「排除されてもよい人は一人もいない」)
龍谷大学犯罪学研究センターが主催し、五十嵐さんのほか、法務省・札幌矯正管区長の中島学さんと同センター長の石塚伸一教授が登壇。開始して間もなく定員の100人にほぼ達し、関心の高さをうかがわせた。
中島さんは、再犯防止に向けての具体的な取り組みが刑務所内で進んでいるとし、満期出所者に対するサポート体制の充実や、民間企業を巻き込んだ就労支援の新しい施策について紹介した。また、再犯防止を考える上で、加害者が当事者であるのと同じように、受刑者の処遇を担う刑務官も当事者であり、その当事者性をどのように考慮するかも問われていると指摘。一方で、刑務官の処遇力をどのように上げていくかも課題の一つだと語った。
五十嵐さんは、再犯防止を推進するにあたり、刑務所内の問題よりも社会にある問題の方が大きいと指摘。「出所者は社会で共に生きていくのに、社会が居場所をつくらなければ、また元に戻ってしまう。受刑者に反省を求めるだけでなく、自分がそういう状況に置かれたときにどうなるのかを地域のみんなで考えていけば、社会はもっと変わる」と話した。
石塚さんは、再犯防止推進法によって再犯防止が自治体の責務となり、各自治体の職員を含め、これまでは関心を持たれにくかった人々にも再犯防止に対する認知が広まったことは大きいと語った。薬物依存者の回復支援施設「ダルク」が広まったのは、問題意識を持った自治体の職員や支援者たちの努力によるところが大きいとし、これまで見過ごされてきた出所者の社会復帰を支援する働きが今後どう広がるかについても同じことがいえると指摘した。
前科3犯で20年近く服役した当事者でもある五十嵐さんは、最近も東京都のある自治体で職員対象の研修会に呼ばれた経験を話し、「当事者の話を聞いてくれるところがあるのは幸せ」と関心の高まりに期待を示した。その上で、「話を聞いてくれた人が、その後どうするかだと思う。ここに参加している皆さんが再犯防止について家族や仲間と議論してくれることで、新しいことがそこでできるし、新しい道が生まれる」と強調した。