日本福音同盟(JEA)神学委員会は8日、新型コロナウイルスに関する神学的考察「心をひとつにして、福音の信仰のために〜新型コロナウイルス時代を生きる教会〜」のパート2をJEAのホームページで発表した。前回の発表から1年半が経過する中、6人の委員がさらに研究を掘り下げつつ、信徒にも読みやすいように短いエッセー形式でまとめた。
文書の冒頭でJEAの岩上敬人総主事は、感染者の多い都市部の教会で礼拝のオンライン配信が定着しつつあることに言及。「私たちはあらためて、キリスト者が体をもって教会に集められる意味、集まって礼拝をささげることの意味について考えさせられています」と述べた。
「この1年間、コロナ禍の中で教会は多くのことを学んできました」とし、「6名の委員による神学エッセーから、私たちが学ぶべきこと、議論すべきこと、警戒すべきこと、考えを深めるべきこと、多くのことを教えられると思います。ぜひお読みいただけると幸いです」と呼び掛けた。
「神のことばの伝達と媒体〜ポスト・コロナに向けて」とのタイトルで寄稿した千代崎備道氏(日本ホーリネス教団、東京聖書学院)は、神の言葉がイスラエル民族の伝承から始まり、各時代の可能な限り良い媒体を通して後世に伝えられた歴史を振り返り、コロナ禍における御言葉の伝達について論じた。礼拝のオンライン配信やSNSを用いた伝道について、「新しい方法にチャレンジすること自体はこれまでもなされてきたことだが、新しい方法にはデメリットもあり、批判も受ける。だからこそ、正しく御言葉を伝えるという意識を持って、吟味しつつ運用することも大切」と指摘。「今後、コロナ禍が終わって以前の手法が再開するとともに、ますますインターネットなどの新しい媒体を用いた伝道が活発になり、その中でいかに神の言葉を正しく伝えるかが問われていく」と述べた。
コロナ禍が人間社会に及ぼした影響の一つに「コミュニケーションの阻害」があり、教会もさまざまな面でその影響を受けて活動が滞っているとした上で、「しかし、神のことばはつながれていない」(2テモテ2:9)と御言葉の希望を示し、次のように論じた。
「神のことばを伝える対象が少人数から大人数になっても、目の前の相手から遠い将来の子孫へと変わっても、さまざまな方法や媒体を用いて対応してきた。不信仰のために心が鈍くなり、耳が遠くなり、目が閉ざされても、神の熱心と聖霊の働きは、預言者たちや使徒たちを通して続けられてきた。今日、コロナ禍による障害も、神のことばを伝えることを止めることはできない」
「これからの教会の在り方を考える―ポスト・コロナ時代を見据えて―」と題して寄稿した篠原基章氏(東京基督教大学)は、「コロナ禍を経験している教会にとって重要なことの一つは『教会とは何か』という問いをそれぞれの状況において問い直し、新たな想像力をもって教会を再構築していくことではないでしょうか」と問い掛けた。
教会の在り方について、「教会は神によって聖定された恵みの手段です。その教会の本質は変わることはありません。しかし、その教会がどのようなものとしてこの世に提示されているかは私たちに委ねられた責任です。私たちは教会の在り方に対して責任を負っています」と指摘。今日の教会に求められているのは、「自らを意識的に変革する決意(コミットメント)」だとし、「変革の時代にあって、教会そのものが自己を創造的に検討することができるかが問われています」と論じた。
また、コロナ禍で集まることを制限されたことで、これまで以上に教会の「霊的な共同体性」を意識するようになったのではないかとし、「コロナ禍にあって、教会の兄弟姉妹の交わりは強くされ、牧会的な配慮は以前にも増して深まったように思います。教会における霊的な共同体感覚の深まりは、コロナ後の教会の在り方を考えていく上での重要な足がかりとなっていくことでしょう」と述べた。
さらに、目に見える形で一つ所に集まることができない経験を通して「一つに集められる」ことの恵みを再発見すると同時に、「散らされる」ことの意味を深めることも重要だと指摘。「教会は教会堂の敷地内にだけ存在するのではなく、教会の生命は散らされた神の民を通して人間社会全体へと注がれていくのです。そして、聖書は散らされた人々が再び集められることを確かな約束として語っています」と論じた。
コロナ禍に直面したことで、教会が第一義的に制度ではなく、むしろ有機的な信仰共同体そのものであることを理解するようになったことは、「教会の本来的な在り方を再考する重要な契機になる」と指摘。かつての西洋キリスト教国をモデルとした「一教会一牧師」型だけが教会の形ではなく、高度に複雑化した現代社会においては、多様な教会の形や在り方が必要とされていると述べた。「教会が制度的に極端に傾くとき、教会は聖霊の力を失ってしまいます」とし、「聖霊の働きは風のように自由であり、有機的です。そうであるなら、教会の在り方も活動も本来的に自由であり、有機的であるはずです。教会が世界の他の団体や組織から区別されるのは、教会に生命を与えるこの聖霊の力と働きによるのです」と論じた。
篠原氏は、これからの教会の在り方を考える上で、「信徒の位置と役割を根本的に見直していくことが鍵となる」と指摘。宗教改革の伝統に立つプロテスタント教会も、常に牧師中心主義や制度化された教会活動に陥る危険性にさらされていることを自覚することが重要であり、信徒の本質的な位置付けと役割を取り戻すことで、教会がより本来あるべき姿を取り戻すのではないかとした。
その上で、「教会は、この変革の時代にあって神の国の到来の徴(しるし)として召されていることを自覚する必要がある」とし、「単に必要に迫られて自らを変革するのではなく、時代の先駆けとしての変革が期待されています。教会はこのような積極的な変革の使命をも帯びているのです」と呼び掛けた。
「心をひとつにして、福音の信仰のために〜新型コロナウイルス時代を生きる教会」のパート2に収録されている神学エッセーのタイトルと執筆者(敬称略)は次の通り。
- 身体性も超身体性も〜聖書に従って
赤坂泉(聖書宣教会、聖書神学舎) - 集められる恵み
山田泉(ウェスレアン・ホーリネス教団、ウェスレアン・ホーリネス神学院) - 神のことばの伝達と媒体〜ポスト・コロナに向けて
千代崎備道(日本ホーリネス教団、東京聖書学院) - これからの教会の在り方を考える―ポスト・コロナ時代を見据えて―
篠原基章(東京基督教大学) - コロナ禍で問い直す社会・政治・経済
青木義紀(日本同盟基督教団、東京基督教大学) - AI技術の成熟と教会を考える〜30年後を見据えて〜
能城一郎(日本アッセンブリーズ・オブ・ゴッド教団、中央聖書神学校)