50代の筆者世代はかつて、1980年代後半に「新人類」と揶揄(やゆ)された。バブル真っただ中でレジャーランド化した大学生活を謳歌(おうか)し、皆が「一人一台」車を持ち、月9ドラマの世界に憧れた。それからも常に「自分は若い」と思い続けてきたが・・・すでに30年以上がたってしまった。
時は令和。人間として半世紀を生き、時々肩が上がらないことも出てくるようになった。気が付くと長女が来春大学を卒業し、社会人となる。そう、もはや私は「若者」ではない。必死になって「若さアピール」をしなければならないほど、そしてそんな自分をギャグにして笑い飛ばさなければならないほど、「おじさん」になってしまった。
だから、である。しっかりと、そして真摯(しんし)に現代の若者たちについて敏感に情報をキャッチしなければならない。特にキリスト教界にとって、これは必須である。「次世代」と書いて「希望」と読むことを本気で願うなら、この少子化時代にこそ、教会に若者が来られる(来たいと思わせる)ようにしなければならない。
と、こんなことを書くと、「私もそう思っていました」と、「昭和末期青春組牧師たち」が言うだろう。しかし、そうならあえて問いたい。「願いは同じ。では一体どうやって若者を教会に導いているのだろうか」。また、そのための具体的な指針をお持ちだろうか。それとも心の底では、「それについてはもっと若い人たちで考えて・・・」と思っているのだろうか。
本書『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTok にハマるのか?』は、マーケティングアナリストの原田曜平氏による新書である。若者文化を軽やかに解説するその語り口が受け、メディアでもひっぱりだこの人物である。彼が10年前に書いた『近頃の若者はなぜダメなのか 携帯世代と「新村社会」』では、本書で扱う「Z世代」の前の「ゆとり世代」を扱っている。その頃の「若者」が社会に出て、今は20代後半から30代を迎えつつある。そして現在の「若者」、つまり本書で言うところの10代後半から25歳以下の世代をまとめて「Z世代」と称し、彼らの生態と世界観を6章にわたって解説している。
印象的なのは、コロナ禍にある「今」も活写し、若者像をよりアップデートしようと常に心掛けている姿勢である。自らを「おじさん」と認識しつつ、SNSやネット社会の最先端を同世代である「中高年の皆さん」に丁寧に解説しようとするその様は、本当に涙ぐましい努力であり、著者のその謙遜な姿勢に甘えて、筆者世代は令和時代の若者たち、つまり「Z世代」について汗かくことなく理解することができるのである。
読み終えて実感したのは、筆者世代の「当たり前」は決して若者たちのそれではなく、むしろ「良かれ」と思ってやったことが、実はとんでもない見当違いな印象を相手に与えてしまうことになる、ということだ。このあたりを真摯に学ぶ姿勢を持たなければ、せっかく教会の門をくぐって来てくれた若者たちを蹴散らしてしまう結果になりかねない。
考えてみれば当たり前だが、筆者の学生時代には携帯電話もユーチューブもなく、情報を得るためには新聞や雑誌を購入するしかなかった。好きな子とプライベートで話すためには、その子の家に電話をしなければならなかった。さらに、その時に親や家族が電話を取る可能性もあり、その「関門」を抜けないとお目当ての子と話すらできなかった。しかし、今は違う。皆が「プライベート」をしっかり持っている。それは親であったとしても簡単には踏み込めない若者の領域なのである。
本書は令和初期の若者の実態、そして変わりゆく時代に何とか意識的についていくためには、どういう観点で社会を分析しなければならないかを、分かりやすく、そしてデータに基づいてひもといてくれている。
確かに購読者層としてターゲットにしているのは、会社経営者やビジネスマンである。しかしそういった人たち以上に「Z世代」について知らなければならないのは、キリスト教界ではないだろうか。なぜなら、若者が来てくれないと教会は立ち行かなくなるからである。
現在、新たな時代を前にキリスト教界は大きな課題に直面している。一つは「無牧教会の増加」。そしてもう一つは「超少子化」である。こういった事態を前に、私たちが何から改革を始めたらいいのか、そしてどんな見通しを抱いてその働きを敢行していったらいいのか、が見えていない。それはちょうど「自転車操業」のようなものだ。こぎ続けているなら前へ進むが、一旦立ち止まるとバランスを崩してしまう。
副題になっている「インスタ」や「TikiTok」は、私も一応、自分のスマホに入れてはいる。しかしこれらをどう使うべきかについて、本書を通して方向修正を迫られたというのが本音である。
著者が語る幾つかの項目の中で、特に私が膝を打ったのは、次の部分であった。コロナ禍を経て、アフターコロナとなったとして、何が若者たちへのアプローチで必要だろうか、という問いに対して――
消費者の消費マインドを復活させる必要がありますが、日常消費に比べ、この「非日常消費」に対する消費マインドを戻す作業は大変です。(中略)非日常に対して消費したいと思わせる――つまり、ドキドキワクワクした気持ちを触発しないといけないのです。(中略)このドキドキワクワクこそ、今後の日本経済復活の鍵となることは間違いありません。(222~223ページ)
最後の「日本経済復活」の部分を「キリスト教界存続(復興と言いたいが・・・)」と言い換えてみると、本書を教会関係者が読むべき、という意味がお分かりいただけるのではないだろうか。
■ 原田曜平著『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTok にハマるのか?』(光文社 / 光文社新書、2020年11月)
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