本書は、『神々と神と』に始まる初期短編群から『深い河』まで、主要な作品16編を軸に、遠藤周作(1923〜96)の文学世界を、その全体像として考察したものである。
今年は、日本におけるキリスト教を大きなテーマとして描いた作家・遠藤周作の没後20年。著者の川島秀一氏(元山梨英和大学教授)が2000年に著した前著『遠藤周作〈和解〉の物語』の構成を大幅に改編・増補した、著者による遠藤研究の集大成となっているという。
「私たちが生きた近代を振り返りつつ、遠藤の文学的ビジョンと想像力が、はるか先の射程をどこまで見定められるのか。あらためて、遠藤文学の意味を問い直します」と、本書を出版した和泉書院は説明している。
同社はまた、「日本的風土の深層とキリスト教との相剋(そうこく)。語り出される《愛の原像》。グローバルな〈和解〉をめざす遠藤文学の現代性と世界性。死者と生者の域を越えて、そのビジョンと想像力は、どのような《いのちのかたち》を描くのか。精緻な読みを通して、その真髄を解明致します」としている。
「序論にかえて―〈文学と死〉をめぐる問い―」で、川島氏は、遠藤が「グローバル」という言葉で呼んだ人間の「根源的な」ことが持つ意味を説き起こし、遠藤の作品世界に立ち戻る。
その後、第1章「小説家遠藤周作の誕生―『アデンまで』から『青い小さな葡萄』まで―」から、第19章「ある躊躇(ちゅうちょ)と疑念―『侍』瞥見(べっけん)―」に至るまで、遠藤の主要な作品に関する考察が収められている。
川島氏によれば、その構成は四つの部分からなる。第1部は、初期短編群から始まり、『黄色い人』『海と毒薬』などの作品を経て、『沈黙』に至るまでの過程と軌跡。第2部は、『沈黙』を起点として、『死海のほとり』を経て『侍』に及ぶ過程。第3部は、『侍』を新たな起点として、最後の『深い河』に至る過程。そして第4部は、『沈黙』以後のイエス像について、その試みをめぐって、日本的風土との関連について論じた2編を置いたという。
川島氏は1949年、奈良県生まれ。関西学院大学大学院博士課程満期退学。文学修士。専門分野は日本近代文学で、遠藤周作や宮沢賢治などを研究してきた。山梨英和短期大学教授を経て、2002年山梨英和大学教授。13年3月、同大教授を定年退職。現在は、大阪成蹊短期大学特任教授。遠藤周作学会副代表、島崎藤村学会理事、日本キリスト教文学会役員。著書に『島崎藤村論考』(おうふう、1987年)、『遠藤周作 愛の同伴者』(和泉書院、93年)、『表現の身体』(双文社出版、2004年)などがある。
川島秀一著『遠藤周作〈和解〉の物語』(増補改訂版)、和泉書院、2016年3月25日、360ページ、本体4800円(税別)