上智大学大学院(東京都千代田区)が、来年4月から新たに実践宗教学研究科死生学専攻(修士課程)を開設することを発表した。既に入試日も決まっており、今年10月末から11月にかけて入試説明会が行われる。同専攻では、医療や福祉などの現場におけるスピリチュアルケアや、死生学や共存の現代的課題に取り組もうとする志を持つ学部卒業予定者や社会人など、年齢・職業などの区別なく多様な人材を受け入れる。
諸宗教の協働的アプローチを通し、現代の諸問題に実践的・臨床的に取り組むことを目的とする同専攻では、現代社会の宗教的思想的基盤を研究するとともに、新たな取り組みが求められる現代の死生学的課題について、価値多元化社会における「宗教の社会的役割(公共性)」「死生観および生命倫理」「臨床スピリチュアルケア」の3つの領域から研究・教育が行われる。また、スピリチュアリティーを基盤にしたケアの実践的対応能力の修得を目指し、これらを通じて実践力のある研究者や臨床家、コミュニティーケア人材、ケア指導者などを養成していく。
同専攻の定員は10人。授業では、初めに死生学研究について理解を深め、死生学的課題の3つの領域から演習科目を履修し、専門領域を特化し、死生学的課題に対する幅広い知見を養うことを目指す。さらに、講義科目と実習やインターンシップからなる選択科目で、関連分野の知識を補完していく。理論と実践を関連させながら学習が行われ、それと並行して研究指導を受け、修士論文の作成を進めるという体系的なカリキュラムを組んでいる。また、修了要件単位に含まれる科目の履修により、日本スピリチュアルケア学会が認定するスピリチュアルケア師(認定・専門)の受験資格を取得することもできる。
実践宗教学は、東日本大震災後、被災者の心のケアと、さまざまな信仰を持つ人々の宗教的ニーズに適切に応えられる人材の必要性から、東北大学では2012年から実践宗教学寄附講座が開かれている。その他にも、現在では仏教系のいくつかの大学で実践宗教学の授業が行われるなど、心に苦しみや悲しみを負った人に寄り添うケアが研究の対象となってきている。
上智大学では、2010年に聖トマス大学(15年3月廃止)からグリーフケア研究所が移管されて以来、身近な人を喪失した後に体験する複雑な情緒的状態「グリーフ(悲嘆)」のケアについて研究が行われている。今回新たに同専攻が設置されることで、これまでに蓄積された宗教や倫理に関わる学問領域とケア関係の学問領域を融合し、日本における実践宗教学や死生学の教育研究の拠点を形成していくことを目指すとしている。