「地球環境が破壊されつつある」と言われて久しい現代社会にあって、環境問題の解決は多くの人々にとって全人類、被造物すべてにとって重大な問題であることが認識されるようになってきている。環境問題を通していかに聖書的価値観を伝えていくべきかについて、キリスト教牧師であり環境問題専門家でもある住田裕氏に聞いた。
CT:キリスト教の本質は環境問題を通して伝えられると思っているのですが、住田先生はどう思われますか?
人の罪性からの解放、祝福のある生き方を明示していくことが大事
住田氏:環境問題の中に含まれる人の罪性からの解放、神様が創られた、神様の御前での恵み、祝福のある生き方を明示していくことが大事であると思います。そうすると、なんだかんだと反発しながらも、神様に取り込まれていくようになると思います。クリスチャンであっても、私達は名を馳せたいとか、有名になりたい、世の中に評価されたいということがあるのではないでしょうか。グローバリゼーションの中で生じる環境問題にもそういう人類の罪性があると思います。洗礼者ヨハネは悔い改めのバプテスマを宣べ伝えていた(マルコ1・4)ことが書かれています。しかしこの悔い改めの部分が、環境問題においてあまり明確ではない状態にあるのではないでしょうか。
CT:今の時代地球環境に関心のある人は世の中にたくさんいらっしゃると思います。そのような方々に対して、キリスト教の本質を伝えるメッセージをお願いいたします。
住田氏:私には大きな疑問があります。というのも、これだけめちゃくちゃな問題が起きつつも、よく見かけ上秩序が保たれていると思っています。背後には神様の摂理があると思います。恵みで、感謝です。このことを、常に覚えたいですね。
環境問題を解決することが人生の目的なのではなく、『善く生きる』ということが人生目的であるべきです。大量生産、大量消費、大量廃棄で経済を回して、より多くのモノを集めれば、善く生きるということにはならないことが今わかりました。そこから解放されていかなければいけません。人のエネルギーの消費量は圧力となり他者を圧迫します。圧力があれば、人と人は離れます。多く圧力を使用すれば、人は圧力を避け逃げていってしまいます。私達のエネルギー消費量が減ることで、実は人と人は身近になり、コミュニケーションが成り立つようになります。家の中で冷房する部屋、暖房する部屋がひとつなら、家族はそこに自然と集まります。快適な生活を行えば、家族がバラバラになります。そうするとコミュニケーションができなくなってしまいます。ですから、エネルギー消費量を減らすことが良いと思います。
CT:しかしそういうことを話すときに、すぐ『物質的に貧しくなってしまう』と考えてしまいがちですが、そこに聖書の価値観が入っていくことでやっと世の中の人が『本来の精神的な豊かさ』を取り戻すことができるようになるのでしょうね。
住田氏:福島原子力発電の問題で、2011年は電力を15パーセントくらい削減することができました。やればできるのではないかと思います。聖書的環境問題研究会は、今いろいろなところにアピールして待っている段階で、神様の御手に委ねています。
CT:住田先生ご自身は技術士(環境部門)というお仕事の上で世の中の企業でも講演されているのですよね。
住田氏:私は『テントメーカー』なのだと思います。働きながら伝道している、と言いますか。東京都の下水道局に務めていたときに、環境問題の現場で取り組む技術を磨いてきました。技術士(上下水道部門)、環境計量士(環境の分析ができる資格)、放射線取扱主任管理者第2種など、環境関連の資格は比較的豊富に持っています。その中でもう一つ、『ISO14000』の資格を持っています。これは環境問題全体のマネジメントシステムを扱う資格です。特別な技術を培うだけではなく、全体をマネジメントしていかなければ、環境は改善されていかないという話です。東京都で働いておりますと、色々な意味で制約、拘束されてしまいます。ですから少し前に辞めて、環境技術士事務所を開設して自由にいろいろなことをやっています。中小企業の所に行って、環境問題についていろいろ説明させていただいています。具体的な問題は出てきますが、しかし最終的なところは聖書に基づいて言いたいと思っています。実際、環境倫理的な話で突っ込んだことは言っていますが。企業の方々もある程度は納得してくれています。話の内容は、かなり客観的に提示しているつもりです。聖書の御言葉、客観的な事柄の例題を持っていきながら説明するような仕組みを作っているつもりではあります。
CT:環境問題に対する聖書的価値観について、世の中の大学や企業でどんどん話されたら良いのではないかと思います。
住田氏:要請さえあれば、いくらでも応じたいと思っています。しかし中小企業などで聖書の勉強を行うのはあまり受け入れられません。要請さえあれば喜んでやりますが、世の中の企業では、あくまで環境問題に関してはノウハウのビジネスの話になってしまいます。行間の中ではもちろん環境倫理的な話はしますが。しかしキリスト教の牧師として、環境問題を聖書的に説明してくれという要請があるのでしたらば、喜んで無料でさせていただきたいと思っています。キリスト教界の中では最近そのような要請が少し増えるようになってきたと思います。
CT:環境問題を通して福音伝道が開かれそうである一方、日本人の中にあるキリスト教に対する潜在的偏見にどう対処するかという問題があるのですね。
「地を支配せよ」―正しく伝えられるべき
住田氏:日本人のメンタリティには汎神論がありますね。神社仏閣、なんとなしに神の心の中に包まれて、地球全体が一つの生き物ものであるというような説明の仕方の中に、すごい説得力があるのではないかと思います。『地を管理せよ』という話と大分異なります。汎神論の世界観の方がよっぽど説得力があるように一見感じられます。キリスト教は、地球環境に切り込んでいって、それを支配して行く。傍若無人に何でも支配して行くという植民地主義的な見方に捉われてしまう。でも支配というのは、神様の支配ですから、統治でもありますね。神様に似せて創られた人間として『ちゃんと真面目にやりなさいよ』ということが言われていて、だから私達人間が責任をもって地球環境を管理しないといけないということなのですが、そのニュアンスがなかなか伝えられていないのではないかと思います。支配というと、勝手気ままに奴隷を支配するような格好で、何でもありだと言う感じになってしまいます。少しずつ、本当の意味を伝えていくしかないのではないかと思います。
CT:人間の霊性が問題ですよね。人間というのがどういう存在なのか?内在するイエス・キリストを伝えていくわけですが、『人間の霊』というのが、肉的なところにいってしまっていると、その人間が自然を管理するというのは無理だろうという根本的な偏見をもってしまうのではないでしょうか。そこからして、キリスト教の本質が、『イエス・キリストの霊性を、救われた人間を通して表していくことにある』ということを伝えて行かなければいけないのではないでしょうか。
住田氏:もうちょっと切り口を変えてみることで、「環境神学」というものを作り出さないといけないでしょうね。本当にとんでもない世界が成り立っていて、どのように回復していったら良いのだろうと思ってしまいます。排出量取引も話題になっていますが、これは二酸化炭素を排出できる上限を決めて、それ以下になった部分(削減量)はお金として売買できるというとんでもない話になっています。二酸化炭素の排出量を経済的な方法で削減していくという話ですね。そもそも神様の与えられた環境に人間が排出していることに問題があるにもかかわらず、排出している量がお金になっていくというのはおかしな話でもあります。それでも「費用対効果」のところで排出量取引の話は進んでいます。具体的な排出量取引のやり方ついて勉強しながら、常に「もっと本質的なところで取り組むべき問題があるのでは?」という思いがついてまわってきますが、そういった話を世の中でしてもほとんど通りません。だからこそ発表していかなければいけないのだと思っています。
CT:環境問題に関心があられる牧師先生が積極的に関わっていける道が世の中に開かれて行く必要がありますね。
住田氏:一つのことをずっと深くやっていく人のことをI型人間といいますね。T型人間というのは、深い知識を持ちつつ、もうちょっと幅広い常識も持っている。そしてΠ(パイ)型人間というのは、幅広い常識を持ちつつ、二つぐらいの深い洞察ができるような専門的な分野を持っている人のことを言います。牧師の世界というのは、I型の世界であるということも問題の一つにあると思います。ひとつのこと、自分の世界の中だけしか知らないと、全体がわからなくなります。カルトの世界も同じで、自分の世界の中だけで物事を展開していってしまいます。牧師の世界も、I型ではなく、もうちょっと客観化していかないといけないと思います。プロテスタンティズムは「神様と私の関係」を強調します。「神に示されました」ということで物事を進めます。一方、一般的に世の中の事をいろいろ知っている人は、あまり聖書に結びつかないという傾向があり、なかなかうまくいかない所があるのだと思います。そこをうまくやっていくことが出来ればと思っています。
CT:そこを結びつけていく働きが大切なのでしょうね。日本でキリスト教と社会との関わりを結びつけるのはやはりクリスチャンメディアの役割にもなってきますね。
住田氏:はい。ぜひやってください。本当に環境問題というのは人類の根源的な罪の問題だと思っています。聖書的環境問題について取り上げていってくださってありがとうございます。東日本大震災と聖書的環境問題についても、また切り口を変えて第2回目の講演会をやっていきたいと思っています。
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住田裕(すみた・ひろし)氏:日本長老教会・幡ヶ谷キリスト教会牧師。住田環境技術士事務所所長。エコアクション21審査人、環境カウンセラー(環境省)、環境計量士(濃度)、公害防止管理者(水質一種)、放射線取扱主任者(二種)、薬剤師。幡ヶ谷キリスト教会、聖書的環境問題研究会ホームページはこちら
参考文献:
杉本昌弘、2009:ジオエンジニアリング概説、社会経済研究所、SERC Discussion Paper.
山本良一、2001:脱物質経済は可能か―私達はどれだけ消費を下げるべきか、東京大学国際・産学共同センター.
住田裕、聖書的環境問題研究会< http://www.hatagayapcj.org/ >.