イラクのキリスト教徒は、他の宗教少数派に属する人々と同様に、イラク国内で虐殺に直面する危機に怯えながら生活しているという。過去3年間をイラクで生活したクリスチャンのドキュメンタリー制作家グウェンドレン・ケイツ氏が米クリスチャンポスト(CP)に伝えた。
イラク国内のキリスト教徒たちは、できれば国内に住み続けたいと願っているが、それが不可能な状態にあるという。ケイツ氏によると、イラクの少数派であるキリスト教とその他宗教関係者は虐殺される危機に直面しているという。なお、イラクではもともとアッシリアのキリスト教徒が古くから住んでいる他、バビロニア時代からユダヤ教徒がイラク地方に住むようになり、歴史上数多くのユダヤ教学者を生み出してきた。アッシリアのキリスト教徒は1世紀から2世紀にかけてキリスト教に改宗し、イラクでキリスト教の信仰を継承してきた。
ケイツ氏は16日、米ニューヨークで記者会見を行い、米国内福音主義指導者らおよび米国内ユダヤ教指導者らに対し、イラク国内の宗教少数派を保護する措置を取らない限り、同国の宗教少数派が浄化される恐れがあると警告した。16日の記者会見で発表された声明文で、ケイツ氏は「イラクの土着民族たちが絶滅の危機に瀕しています。植民地時代の米国内のインディアンのような虐殺に彼らは直面しています」と発表した。
米国が2003年にイラク戦争を開始してから、同国では宗派間の暴力が激化している。イスラム教徒ではない宗教少数派の共同体はシステム的にイラク国外から乱入してくる過激派らによって攻撃の標的にさらされているという。このような宗教少数派の浄化運動がイラク政府およびクルド地域政府の承認の下に行われ続けているという。
最近の統計によると、イラク国内のキリスト教徒の数はたった50万人でしかないという。これは2003年の80万人から140万人のキリスト教徒が存在するとされていたデータから比較すると大幅な減少を示している。
ケイツ氏は「教会、村、家屋が破壊され、学生バスも爆破されています。あらに古代からの伝統を有するアッシリアの歴史的な文化遺産も略奪されています。殺人や強姦、誘拐事件が蔓延しています。そしてこのような被害に直面している共同体に属する人々こそが、本当の民主主義を望む人たちであり、教育された人たちでもあります」と述べた。イラクに住む多くの宗教少数派に属する人々が、フセイン政権時代の方が良い生活ができていたと話しているという。
ケイツ氏はイラクからの宗教難民に関するドキュメンタリーを制作している。2012年秋には「エデンの園の嘆き」という作品を公開する予定である。ケイツ氏は2008年に米軍とともに民間人としてイラク入りし、ドキュメンタリー制作活動に関わってきた。その後現場でのフィールドリサーチを経て、イラク国内宗教少数派に焦点を当てた作品を制作することを決意した。
昨年10月21日にイラク首都バグダッドの教会がイスラム教急進派によって爆破された際もケイツ氏はイラクに滞在していた。同爆破事件では教会の集まりに出席した58人が死亡した。当時ケイツ氏は少数派のキリスト教徒らがひっそり暮らしているイラク北部に滞在していた。爆破事件後、イラク北部のキリスト教共同体の全ての人たちが数週間この事件を受け嘆き悲しんでいたという。アムネスティ・インターナショナルでは同事件を戦争犯罪であるとして糾弾している。
昨年11月3日にはアルカイダに関連するテロリストらが「イラク国内の異宗教者らは死への準備をするべきである」と公式に発表した。その後イラク国内に在住するキリスト教徒らの不安はますます高まるようになったという。現在米軍がイラクを撤退する準備をしており、緊張感はますます高まっているという。
■ ケイツ氏が米CPに紹介した昨年クリスマスの悲劇について紹介した動画