2000以上の団体から構成されている核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は、9月16日にスイスジュネーヴで核兵器廃絶に関する会合を行った。会合には世界教会協議会(WCC)も参加し、軍縮に向けた今後の政策の見通しについての検証が行われた。3日、WCCが発表した。
ICANによると、「核兵器のない世界が存在し得るか?」という問いに関する世界各国の市民を対象にした世論調査では、大部分の人が「存在し得る」との見解を示しているという。一方で各国政府に対する核兵器全廃の可能性に対する調査では、大方の政策指導者らが「おそらくいつかは可能であるでしょうが、私たちが生きている時代では不可能であると思われます」との回答が返ってくるという。
核兵器廃絶に関する進展が停滞していた数年の時期を乗り越え、現在核兵器廃絶を支持する声は世界的な高まりを見せている。会合に参加したニュージーランド人で世界各国の国会議員の核兵器廃絶に向けた動機付けの働きを行っているアリン・ウェア氏によると、国連では現在核兵器禁止条約(NWC)を支持する加盟国は133カ国に及んでいるという。ウェア氏は「他の軍縮条約や核兵器を保持することの世界平和に対する不条理を訴える活動の成功に伴い、核兵器廃絶に向けたより相互の団体や国々の協力関係による動きが活発化し、核兵器廃絶に向けた動きが支援されるようになってきました」と述べた。
~核兵器問題に対処するための国際人権法による取り組み~
核兵器が非合法であるという認識は日に日に高まるようになっている。ICANオーストラリアのティム・ライト氏は「私たちには国際刑事裁判所(ICC)があります。世界各国指導者たちに核兵器をそれぞれの国で保持し使用し続けるならば、それがその政策指導者自身の姿が反映されていることであることをしっかりと認識させる必要があります」と述べた。
その上でライト氏は市民社会団体らが核兵器廃絶に取り組む基盤として国際人権法を用いることで、核兵器製造に関与する企業との癒着から抜け出し、核兵器を保持する国々へ直接働きかけていくことを促した。核兵器を保持する国々では軍事兵器を最新化させていこうとする中にあって、核兵器廃絶の動きへ取り組まなければならないという法的な責務が課せられているという複雑な軍事事情を有している。
非営利団体のウエスタン・ステイツ・リーガル・ファウンデーション(WSLF)のジャッキー・カバッソ氏は「(軍縮に向けて核兵器を)より少なく、しかし最新を目指す(Fewer but newer)」という方針が核兵器を保有する軍事国各国の軍縮政策を難しくしていると指摘した。
米国政府は最近同国で保有する核兵器を最新のものに更新するために2,000億ドル(約15兆4千億円)以上を費やす決定を行った。 昨年新たに行われた米露間の戦略核兵器削減条約(START)を踏まえた上で核兵器を最新のものへと更新していくための資金として策定されたものの、同条約を守りつつ最新の兵器に更新するという費用のかかる「軍縮」政策となり、STARTの米露間の交渉は穏やかな軍縮政策にしかつながらなかったのではないかと指摘した。
核時代平和財団(NAPF)のアリス・スレイター氏は原子力発電のコストと発電後の結果に焦点を当てた活動を行っている。今年3月11日に生じた東日本大震災で地震と津波、そして原発事故による放射能被害という三重苦が生じたことを受け、世界30カ国に存在する500基の原子力発電所、および今後製造予定の60基の原子力発電所の是非に対する疑問が世界中で巻き起こるようになった。
スレイター氏は、最近ドイツ、スイス、イタリアおよびスペインが脱原発を行う方針を決定したことを称賛した。スレイター氏は世界の電力需要の半分をまかなうのに380万基の風車が必要になることを指摘し、「毎年730万台の新車が製造されている事実を踏まえて考えれば、これだけの風車を製造することは対応可能なことではないでしょうか」と提案した。
ピースボートの共同代表を務める川崎哲氏は、日本国内100都市の市長らが北東アジア圏における非核兵器地帯(NWFZ)形成のための活動に携わっていることを伝え「NWFZは核兵器のない世界の安全を示すモデルといえます」と述べた。世界の他の6地域においてはすでにNWFZが定められているにもかかわらず、北東アジア圏および中東圏ではまだ交渉段階であり、原発・核兵器被害による慢性的な不安が生じたままとなっている。
ドイツ人科学者で核兵器製造に反対するエンジニアおよび科学者による国際組織を代表するレジーナ・ヘイベル氏は、弾道ミサイル(BM)も核兵器と同様の理屈で拡散するようになっていることを指摘した。核兵器を保有する軍事各国では軍事力の基盤としてBMと核兵器の両方を保持することで一つの軍事的な強さを示す理論的説明ができると見なす傾向がある。その上でそれぞれの軍事各国が「自国で保有している分には良しとしても他諸国で保有されることは都合が悪いと考えています」とヘイベル氏は指摘した。そのためある一国がBMと核兵器による軍事力を高めようとすれば、対立国それぞれも同様に高めようとする動きに出るのだという。そのため、このような互いに軍事力を高め合う動きの主たる動機を与えているのは世界最大の軍事力を持つ米国ではないかと指摘した。
WCCは核兵器の全廃および世界6大陸の加盟諸教会とともにそのための具体的な動きを追求していくことを提唱している。