30年以上もの長い間、パプアニューギニアのフォロパ語族の人々の間で生活し、聖書翻訳の働きを続けてきた米ウィクリフ聖書翻訳協会のニール&キャロル・アンダーソン夫妻の経験をニール師の視点で書いた本「真理の源を求めて」の日本語版出版記念講演会が10日、同夫妻を招き、日本福音キリスト教会連合・宣教教会(東京都世田谷区)で行われた。主催は日本ウィクリフ聖書翻訳協会。同夫妻は講演で、聖書翻訳の過程における喜びや苦労、大変さについて語ったほか、35年間のパプア・ニューギニアでの宣教生活を振り返り、その恵みある実体験について証した。また聖書翻訳をやり遂げた感想として、ニール氏は「まだ神さまの福音が届いていないところに福音が届けられるようになった」と述べ、宣教現場における聖書翻訳作業の重要性について訴えた。
アンダーソン夫妻は、異国のパプア・ニューギニアで35年間宣教活動を続けた。現地の人々と暮らしながら4人の子どもを育て、身も心もパプア・ニューギニアの宣教に捧げてきた。「真理の源を求めて」には、その宣教過程における喜びや苦労、聖書翻訳に至った経緯などについて書かれている。本書の著者は同夫妻と宣教を共にしたハイヤット・ムーア氏。ムーア氏はニール氏に対し、「あなたは多くのことをした。あなたがしたことを多くの人が知るべきだ。あなたは本を書くべきだ」と呼びかけたことがきっかけとなり、本書が執筆されるに至ったという。
インドネシアの東に位置するパプア・ニューギニアは、英語を公用語としており、もとよりキリスト教の信徒が多数存在している。一方、少数部族の間では祖先崇拝などの伝統的信仰も以前として根強く残っている。アンダーソン夫妻がパプア・ニューギニアに赴いた当時、現地には約3000人のフォロパ語を話す部族が存在し、その中のおよそ500人がキリスト教を信仰していたという。同夫妻の赴任先となった村には約350人のフォロパ族が住み、当時はわずか20人がキリスト教を信仰していた。しかし35年後には、長期にわたる宣教の実りとして170人が洗礼を受けるようになり、「神さまの恵みだ」とニール氏は証した。
ニール・アンダーソン氏は、フォロパ語の聖書翻訳に携わったことについて、「ノアは神さまに箱舟を作ることを命じられた。しかし私は、翻訳作業の壁にぶつかり、『ノアが箱舟を作る方が翻訳の作業よりも簡単だ』と神様に不平不満を言ったこともあった。けれども私たちの苦労は決して無駄ではなかった。35年がかりという大きな労苦があったが、その過程を通して存在しないものが存在するようになった。神様の福音の届いていないところに福音が届けられるようになった」と語り、大役を成し遂げた満足感を証した。
翻訳作業の中で一番心に残った言葉は「贖い」であるとニール氏は語る。同氏は、フォロパ族の人々がこの言葉を受け入れるに至った経緯について証した。「ある男性が木を切り、その倒れた木の下敷きとなって一人の女性が死んだ。その女性の遺族はフォロパ族の風習である『やられたらやり返せ』の精神に基づいて、罪責感のゆえに家に隠れていたその男性に取引を求めた。結局男性の親族が女性の親族に高価な貴重品を渡したことで取引が成立し、彼の罪はゆるされた」。ニール氏はこの取引をイエス・キリストの贖いに置き換えて、「私たちが死ぬべきだったのにイエスが取引に来られた。彼は私たちを自由の身とするために自分の命を差し出した」とフォロパ族の人々に伝え、「贖い」の意味についてわかりやすく説明したという。この説明を受け、「取引のためにはたくさんの物を差し出さなければならないが、自分の命を差し出す人間がいるなんて!」とフォロパ族の人々は驚き、人々は「贖い」の意味を理解したとニール氏は話す。
現地で出版されたフォロパ語の聖書は500冊が刷られ、すでに140冊が売れている。現在のところ、主に牧師とその配偶者、伝道師などに配られることにとどまっており、一般信徒の手にはまだ十分に行渡っていない状態だ。一方、旧約聖書のフォロパ語翻訳も進められており、現在は創世記が終わってヨシュア記とルツ記の翻訳が進められているという。さらに、翻訳作業と平行して現地の人々の読み書き教育も行われているという。
今後アンダーソン夫妻はカナダに赴き、「カナダSIL」という言語訓練機関で宣教師訓練の講師をする予定。ニール氏は講演の最後に、「今後はアジア人の宣教師も育てていきたい。宣教師にとって大事なのは人生の全てを神様にささげる思いだ。また遣わされる地域の人たちに対して繊細に気を配ってへりくだることだ。最も大事なことは神様が導いてくださること、創り主である神様に対する絶対的な確信です」と語った。