2018年3月23日、フランス南部のトレブで、IS(イスラム国)に傾倒する若者が2人を殺害し、人質を取って地元のスーパーマーケットに立てこもった。フランス国家憲兵隊の中佐であるアルノー・ベルトラム(当時44歳)は、人質の女性と引き換えに自分が人質となることを犯人に申し出た。スーパーマーケットに入る際、彼は自分の銃を外に置いて、当局がスーパーの中の様子を聞き取れるようにと、携帯電話をつないだままにしていた。
ベルトラムは、スーパーマーケット内で2時間にわたり、モロッコ生まれのフランス市民であるラドゥアン・ラクディム(当時25歳)と対峙した。悲劇的なことに、当局はつながったままの電話を通じて銃声を聞くと、すぐさま特殊部隊を突入させてテロリストを急襲し、射殺した。しかし、ベルトラム中佐は犯人によって4発の銃弾を受けて重傷を負い、病院に運ばれたが、その夜のうちに帰らぬ人となってしまったのだ。
ベルトラムは非宗教的な家庭に生まれたが08年、彼が33歳の時にカトリックに改宗し、洗礼を受けた。15年の巡礼中に、彼は「生涯の伴侶」に出会えるよう祈り、その直後にマリエルと出会った。16年8月、書類上の婚姻届を出す民事婚を済ませると、2人は婚約期間に入った。結婚の準備を進めていた2人は、晴れて18年6月、教会での結婚式をもって事実上の結婚関係に入る予定だった。事件が起きたのはそのわずか3カ月前のことだったのだ。
ベルトラムの命が助からないことが分かると、神父が呼ばれ、ベルトラムとマリエルは病院で結婚式を挙げたという。その数時間後、結婚の誓約を立てたばかりの新郎は、新婦のマリエルを残して天に召されたのだ。
憲兵隊のチャプレンであるドミニク・アルツ神父は、ベルトラムは究極の犠牲を払ったと述べた。「彼の献身的な行為は、彼が信じていた信仰と一致していると言えます。彼は国への奉仕と信仰の証しを最後まで全うしたのです」
アルノーの兄で将校であるセドリック・ベルトラムは「弟がスーパーマーケットに入ったとき、生き残る可能性が低いことは十分に理解していたと思います。彼は、自分が何をしているのかよく分かっており、その決断に一瞬のためらいもなかったことでしょう」と、フランスのラジオネットワークに語った。
結婚式を挙げて、わずか数時間後に夫を天に送ったマリエルは、彼の勇気と公僕としての献身をたたえ、夫の行動を誇りに思っていることを明らかにした。事件がなければ、2人は教会で結婚式を挙げる計画を立てていたため、彼の死は残されたマリエルにとって非常な悲しみとなった。しかし彼女は、彼の行動が他人を救うためのものであったことに慰めを見いだしているという。
2018年3月28日、殉職後特進したアルノー・ベルトラム大佐の死を悼み、パリのアンヴァリッドで国家的な追悼式が行われた。この場所は、フランスの英雄や功労軍人が埋葬される場所として知られている。式典にはマクロン大統領をはじめ、多くの政府高官や軍関係者、そして一般市民が参列した。
聖書は言う。「人がその友のためにいのちを捨てるという、これよりも大きな愛はだれも持っていません」(ヨハネ15:13)。また「主の聖徒たちの死は主の目に尊い」(詩篇116:15)と。
命の犠牲を払って、その道を全うしたベルトラムのような義人がいたことに大きな慰めと励ましを受ける。このような真実なキリストの僕が多く起こされ、世俗化の著しいフランスが力強く主に立ち返るように祈っていただきたい。
■ フランスの宗教人口
カトリック 57・6%
プロテスタント 2・1%
英国教会 0・03%
ユダヤ教 1・0%
無神論 26・6%
イスラム 10・5%
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