21日、2011年度最後の東京基督教大学(TCU)オープンキャンパスが行われた。同大学は今年4月から日本初の福音主義に立つ神学大学院「東京基督教大学大学院神学研究科神学専攻」が開設される。
オープンキャンパスでは学長挨拶、学部学科の概要の説明がなされた後、TCU在学生によるキャンパス・ツアーが行われ、TCUチャペル、図書館、寮、福祉実習棟、食堂などを実際に訪れ、それぞれ施設担当者からの説明がなされた。食堂での昼食をはさみ、午後からキリスト教福祉学、神学科、国際キリスト教学の模擬授業がそれぞれ20分ほど開催され、その後学納金、奨学金説明、入試ガイダンス、個別面談が行われた。
同大学学長の倉沢正則氏は、「これまで何度かオープンキャンパスをさせていただきました。東京基督教大学は一言で言いますと、『クリスチャンの、クリスチャンによる、クリスチャンのための大学』です。『クリスチャンの』ということは、聖書を神の言葉として受け止めて、キリスト教的な世界観で教育を行う大学を意味します。聖書を基本にして、聖書の語っている世界観を知ることを人生の土台として、いろいろなことを考えることができる皆さんであってほしいと願っています。教職員が全員クリスチャンであり、理事も経営・運営者も全てクリスチャンであるという大学は希有な存在であると思います。『クリスチャンのための』大学というのは、TCUでは洗礼を受けたクリスチャンの方々に教育を授けています。クリスチャンとは何なのか、どういう存在なのかという事を、一人一人の学生が自ら問いかけて、聖書や教室の学び、寮生活から見つめてもらいたいと思います。人生の軸の基盤をキリスト教信仰に置いていただくお手伝いをできればと願っております。イエス様を通しての神様との関係は非常に重要で、その関係をチャペルや教会生活で持った上で、広い世界を見てほしいと思います。神学であれ、国際キリスト教学であれ、キリスト教福祉学であれ、そういう扉を通して世界のいろいろな現実の課題を見つめることができる人になってほしいと思います。21世紀はグローバルな時代、全世界が非常に近くなって交流がさかんになり、異文化理解をもって人々の必要に仕える国際人として、クリスチャンこそがグローバル化の中で輝いてほしいと願っています。また高齢化で年配の方々が増えている中で、その人たちの必要に応えるような働きを、クリスチャンでなければできない分野で提供していきたいということが、キリスト教福祉学を私たちの大学でスタートさせた当初の目的です。キリスト教福祉学を通して、人の必要に共に寄り添って生きることができるような人材が必要です」と述べた。
同大学神学部長の小林高徳氏は、「『人間の価値』、『存在の意味』、『自由』ということが現代社会において問われていると思います。ユニークな存在として神様が私たちをそれぞれの場所、時に用いられるようにお造りになられました。『与えられた命を生きる』とはどういうことでしょうか。『自由』というのは、『選択の自由』がある、自分の生涯を自分の願うままに設計することができるということですが、同時に願う通りにはならないのが、私たちの現実でもあります。自由には制約があります。しかしキリストに捉われてこそ、本当の自由を私たちは味わうことができ、そのことを私たち(クリスチャン)は既に知らされています」と述べた。
またキリスト教福祉学の日本社会への貢献について、小林氏は「日本は超高齢化社会になります。20年後には65歳以上が人口の半分近くになって、高齢化した社会になると予測される中で、私たちが与えられた役割を全うするにはどうしたらよいでしょうか。介護が必要になってきます。年をとってくるほど、『人間の尊厳』が重要になってきます。高齢社会において、キリスト教福祉学、クリスチャンによる福祉が非常に重要になってくるといえるでしょう。国家が民間に福祉を委託した時代であるからこそ、人の命の尊厳を知っているキリスト者が、この領域でリーダーとして仕えていくことが大切です」と説明した。世界の福祉事業はキリスト教の精神から生み出されたものが多くあり、日本の福祉事業草創期にも賀川豊彦、山室軍平、石井十次、留岡幸助らが聖書の言葉に導かれ、日本の福祉事業に従事してきた。高齢化が進む中にあって、キリスト教精神に基づいた福祉を担う人材養成に、期待が寄せられている。
国際キリスト教学の日本社会への貢献について小林氏は、「日本が経済的には進んでいます。国外から労働者が来ないと、経済が成り立たない状況にあります。教会もディアスポラの人たちが日本の教会の中にたくさん増えてくる中で皆さんは生活をしていくことになります。そのときに、どのように文化や社会的な枠組みが異なる人たちとつきあい、社会や教会、共同体を形成して行ったら良いかということが重要な課題になってきます。インターネットの社会に生きる先進諸国において、若い人たちのものの見方には3つの方向性があると言われています。ひとつは『現実世界の出来事が自分に直接インパクトをもってぶつかってこないと現実として自覚できない』という考え方があります。人間の存在意義が都市化や産業化、高度な技術の中で失われており、お酒やドラッグなど刺激を与えられないと自分の存在意義を見つけられないという考え方でもあり、それは依存症を生み出します。二つ目は自分の世界は自分で造り出すことができるという考え方があります。これはバーチャルリアリティの世界で生きるという考え方であり、私たちはこういう文化への誘惑の中に今も生きていると言えるでしょう。実際に現実の世界で人と人が交流することは厄介です。意思疎通がうまくいかなければ、相手を傷つけます。そうしたことを避ける考え方がバーチャルリアリティの考え方です。そう言った人たちに本当の意味とか自由、存在意義をどう伝えていくべきでしょうか?聖書に書かれている福音の真実を確実に、私たちがキリストの御前に何を行うべきかという事を見つけ出し、周りの人たちを知らせていかなければなりません。それができるのが第3の考え方である『キリスト者としての考え方』であると言えるでしょう」と述べ、キリスト者としての考え方を社会に伝えていく必要性を説明した。
TCUは北米最初の福音主義高等教育機関のひとつである米バイオラ大学と姉妹校提携を結んでいる。TCUとバイオラ大学両大学の特色として、両大学ともに信仰基準、理事、教員、学生が全て福音主義に根差していることが挙げられる。TCUは全寮制となっており、全学生の四分の一が留学生となっているため、在学中に信仰に基づいた相互のコミュニケーション力を高め、実践に基づいた人格教育が受けられる他、多様な国際交流を学生同士で行うことができることが大きな魅力のひとつとなっている。
また国際キリスト教学専攻の学生は、2年生の夏休みに米ワシントン州にあるシアトル・パシフィック大学(SPU)で海外語学研修を行う他、選択必修科目として日本国際飢餓対策機構や海外キリスト教NGOなどで、TCU学生のために組まれた特別なプログラムに参加し、アジア各国で一カ月、あるいは韓国で3カ月の実習を行う事ができ、実習の課外活動としてキリスト教NGOや宣教団体の海外ワークキャンプ・宣教ツアーに参加する機会もあるという。
TCUでは2001年度から同大学の学生がTCUで3年(教養教育科目)、バイオラ大学で2年(専門科目)を修了することにより、両大学の学位を取得することができるダブルディグリー制度を取り入れてきた。バイオラ大学の授業料はTCUに比べかなり高額となっているが、ダブルディグリー制度を利用して留学することによって、TCU授業料との差額がバイオラ大学から特別奨学金として支給されるという。
またTCU国際キリスト教福祉学科キリスト教福祉学専攻の学生は、「介護福祉士等修学資金貸付制度」を利用することができる。この制度は、国からの補助を受け、各都道府県の社会福祉協議会等が介護福祉士の資格取得をサポートする制度で、TCU福祉学専攻を卒業後、一年以内に介護福祉士国家試験に合格して、申請した都道府県内において介護等の業務に従事し、その業務に5年間引き続き従事した場合は、貸付金の返還が免除される。
大学院神学専攻へは、TCU卒業生が進学する他、他大学卒業者は原則TCU神学専攻3年次に編入後、4年間で教会教職課程を履修しうち2年が大学院専攻科での学びとなる。将来的には博士課程も設置する計画であるという。詳細はTCUホームページまたはTCU入試担当(0476・31・5520)まで。