19日午後6時30分から東京麻布台セミナーハウスで連続講座「グローバル化の中の人身売買」第6回として、アムネスティ・インターナショナルスタッフとして働く川上園子氏による講演会が行われた。
川上園子氏は、アムネスティ・インターナショナルスタッフとして働くほか、外国人研修生ネットワークでも活動を行っており、外国人研修生ネットワークの一員としての立場で「外国人研修制度〜もうひとつの人身売買?〜」と題して講演を行った。
昨年12月から開始され、今回で6回目を迎えるこの連続講座では、この1、2年でようやく日本でも深刻な問題として性的搾取を目的とする女性や少女の人身売買に目が向けられるようになってきたことを受け、このような人身売買をグローバル化のなかで起きている「搾取的移住」と捉え、また人身売買の被害者が人種主義によって受ける差別や性的目的以外の人身売買にも目を向けつつ、人身売買の被害者が直面する様々な問題に光を当てながら搾取的移住を生み出す社会構造を問うことで撤廃に向けての道筋を探っている。
今回は、日本の中小企業が現地ブローカーを通じて行う「外国人研修生制度」という隠された闇の制度に光を当て、外国人研修生制度が「もう一つの人身売買」にあたるのではないか、という問題提起を行った。
外国人研修生制度とは、第3世界の人材の育成のために、第3世界の労働者が日本の中小企業で一定期間の研修を受け、その後自国に戻り、研修で得た技能を自国で活かすことで、第3世界の発展につながるとして「出入国管理及び難民認定法」に定められる、「本邦の公私の機関により受け入れて行う技術・技能または知識を習得する活動」を行う制度のこと。
しかしながら、現実としてこの制度にはらむ問題は深刻であることが、川上氏の講演により明らかになった。
講演では、実際に外国人研修生として日本で働き、途中で逃亡した中国人女性の話や、日本の中小企業経営者が労働基準法を守らずに低賃金で外国人研修生を長時間働かせている実態が露わになり、実際に中国人女性らが日本の中小企業経営者を訴える場面を実録したDVDが公開され、未だ日本に存在する深刻な搾取労働の実態が明らかにされた。
ある中国人研修生の証言によると、自国でのブローカー(送り出し機関)からは、「日本での研修が終わったら日本に留学できる」と言われ、その言葉を信じて両親が多額の借金(日本円で30万円以上)をして来日費用や手数料を工面して日本に来たという。
その後、空港から会社の寮に向かうバスの中で「受け入れ機関」である組合職員にパスポートを預けられ、以来研修中パスポートを返却されなかったという。そして日本での研修職種は「プラスチック加工」。内容はといえば毎日ほぼ12時間、ビニール袋の数を数えて箱に詰めるだけの作業であったという。契約の研修手当て(7万)のうち、3万円は「貯金」と称して差し引かれ、通帳を見ることもなく、昼夜勤交代制で6畳の部屋に研修生4人住まいであったという。そのうち同僚の研修生が精神的に不安定になってきたため、怖くなり着の身着のままで逃亡、東京駅で警察に保護されシェルターに入れられた。その後、ブローカーが中国の両親のもとに行き、「研修を終える」という契約を全うしなかったとして違約金の支払いを強制したという。
実際、このような研修生に日本の中小企業が支払っている研修手当ての平均額は1997年以来減少し続けており、現在月に6〜8万円であるという。にもかかわらず、外国人研修生入国者の数は年々増加しており、90年代初めには4万人だったのが2004年には7万5400人に増えた。
またある中国人研修生の証言によると、残業代としては時給200円〜300円で働かされていたという。そして、日本滞在中は受け入れ側機関による誓約書によって「携帯電話の所持禁止」、「手紙の禁止」、「社内での『お祈り』の禁止」、「断食は日本で禁止」、「送金の禁止」、「遠出の禁止」、さらに違約金の規定、パスポートの受け入れ側機関による保管がされ、事実上会社に「拘束状態」で研修生活を行っていたという。
このような問題に対して川上氏は、「外国人研修制度」は人身売買の一形態に値するとして警告を促した。
しかしながらこの問題の背景には深刻な日本中小企業の「人手不足」の問題がある。日本の若者は骨の折れる単純労働作業をしたがらない。また低コストで人材を確保し、製品を生産するニーズがある。このような中、日本の繊維業などを経営する中小企業は必然的に外国人労働者を獲得しなければ経営が成り立たない状況にある。
川上氏はこの問題に対して、外国人を「研修生」としてではなく、正式に日本政府が「労働ビザ」を発行するべきであると提言しているが、日本政府側では、「国を如何に安全に守るか」に焦点が当てられ、なるべく第3世界の移民を日本に留まったままにさせておく形は避けたいのだという。外国人単純労働者の日本に占める割合が増加すると日本の治安が不安定になる、という懸念から、「管理しやすい労働力を維持する方法」として研修後は母国に帰国してもらうことが条件の「外国人研修制度」を取り入れているのだと川上氏は主張。「外国人研修制度」が第3国の発展に寄与するという国際貢献的日本政府の見解と、現実の有り様があまりに乖離していることを警告した。
その後聴衆からの質疑応答も活発に行われ、このような搾取労働に苦しむ外国人労働者らに実際に機能する相談窓口を設置すること、国連やNGOが積極的に取り上げ、問題を表面化することなどの意見が出され、現代日本の闇に潜む深刻な問題を認識・議論する機会が与えられた。
この連続講座は今後7月21日、9月8日と同セミナーハウスにて行われ、人身売買を本当になくすための講演が続けて行われる。連続講座に関する申し込み・問い合わせは反差別国際運動日本委員会(IMADR-JC)事務局(www.imadr.org/japan)まで。