日本キリスト教連合会(日キ連)は27日、株式会社資生堂の現相談役を務める池田守男氏を講師に招いて、「教育におけるサーバントリーダーシップ」と題した講演会を東京・早稲田の日本基督教団事務局4階会議室で開催した。池田氏は、日キ連加盟教会の牧師ら20人余りを前に、社会に対する公益性をもち、「ゆるみ教育」に留まっている現状の教育意識を見直した真の「ゆとり教育」における基本倫理を取り戻そうと訴えた。
池田氏は現在、安倍晋三総理大臣による内閣の教育再生会議で座長代理を務め、教育の荒廃が叫ばれている現場の声から「未履修」や「いじめ」といった問題を大きな課題として「規範意識」や「道徳」を通した教育改正に取り組んでいる。
「ゆとり教育」は偏差値優先の教育が叫ばれ続けた結果『このままでは人間性がなくなる』ということから取り入れたものではあるが、実際の現場では「ゆるみ教育」に陥ってしまっていると池田氏は説く。
「九九一つ取っても、反復しかない。ただひたすら反復」と話し、「ゆとり教育」が始まり、小学校3年生になっても九九も十分に言えない子どもがいる現状を指摘し、基礎教育は徹底的に教え込む以外なく、その上に学問が成り立っていくと伝え、「ゆとり」と称して学びを放置しては子どものためにならないと語った。
また「ゆとり教育」によって学校以外で過ごす時間が多くなるため、子どもたちの居場所として地域全体で一つの意識をもち、社会的教育という保護を与える必要があると説いた。
その働きの一例として池田氏は、杉並区のある学校での働きについて紹介した。そこではリクルートから転進した校長のもとで地域と学校が協力し、土曜日の寺小屋、略して「土寺(どてら)」と名づけられた学びの場を子どもたちに提供している。ゆとり教育によって休みとなった土曜日を有効利用し、地域の有志らが音楽や園芸などを通して子どもたちにこころの豊かさを教えている。
「子どもは嬉々として参加しています。父母も、定年退職した方々も参加しています」と池田氏は、すべての年代において交流の場となる、学校を中心とした活動の重要性を語った。
池田氏は、「教会は福音を伝えるという使命をもつと同時に、地域とのコミュニティを作っていくという意識をもって、積極的に教育に参加すべきではないか」と指摘。「欧米では日曜学校があり礼拝にいきます。その中でのコミュニティで多くを学びます。(教会の日曜学校が、)学校によって喪失した『ゆとり』を与えるよい機会ではないでしょうか」と話し、教会が子どもたちの教育において重要な役割を果たすことを伝えた。
また、「批判があるかもしれませんが」と土曜登校の復活を提案し、地域の人々との交わりとして、ボランティアや企業人が積極的に教師として参加し、学びの場を設けたい考えを示した。そこで子どもたちに教えるべき大切なこととして「規範意識」を挙げ、キリスト教に限らず、宗教によって表される「規範意識」を学校教育の中に取り入れ、伝えていくべきではないかと語った。
さらに、「規範意識」は頭で学ぶものではなく、奉仕活動などの実践から学ぶものだとして、小・中学校の道徳の時間を高校・大学では奉仕の時間として取り入れてみたらどうかと、新たな教育体制を提言した。「大学への4月入学を9月入学にずらし、高校卒業からの5ヶ月間、社会に出て奉仕活動を行ってはどうか」と具体案を提示し、大学に通うのもただ学識を求めるだけではなく、奉仕の精神をもって、人生それ自体を奉仕の姿勢で過ごしてほしいと語った。
池田氏は、「他者のために生きてこその自分、すべての行動が奉仕になるべき」「イエスキリストが師であり主でありながら、弟子たちの足を洗い、あなたがたも同じように互いに洗いなさいと教えた、これが使命ではないでしょうか」と話し、一番上に立つものが下のものに自ら率先して仕える「サーバントリーダーシップ」の精神を教える必要性を訴えた。
最後に池田氏は、「クリスチャンとして福音そのものを伝えるだけではなく、この精神をともにしていくという姿勢が大切ではないでしょうか」「そのためにも教育を見直していかなければなりません」とキリスト教関係者らに強く訴えた。