今月6日より来日中の聖書協会世界連盟(UBS)アジア事業発展部主任ウィーセン・クア氏は8日、東京都中央区銀座の日本聖書協会で記者会見を行い、中国国内で急速に成長・拡大する教会の聖書頒布状況を報告した。
同氏が理事を務める南京愛徳印刷有限公司(Amity Printing Co. Ltd.)は、日本を含むUBSが創立支援し1987年に設立された中国政府公認の聖書印刷工場だ。1時間1000冊のペースで聖書を印刷する技術は当時世界で最先端といわれた。また、それまで中国では聖書を手書きで写して配布していたという。2002年に聖書の総発行部数3000万部を達成した同社は、今年末までに3400万部に達し、年間発行部数は今後さらに伸びるとの見通しだ。
約300人が働くこの工場では、中国語訳聖書のほか、英語と中国語の対訳聖書、少数民族リス族のためのリス語、点字聖書、オーディオカセット聖書(新約)、子ども向け絵本聖書、他団体の伝道用小冊子などを印刷している。クア氏が特に力を入れているのが映画「ジーザス」で、都市部の富裕層にはCDロム版を、それ以外の人々には本を用意した。また、教会で使う識字率向上のための教材も完成したという。他の少数民族語訳の計画も進行中だ。アジアなど海外諸国に輸出するバージョンも売れ行きも好調で、今年4月までに450万部に到達した。
同氏によると、工場で印刷された聖書は、チベット自治区を除く全省に置かれた70の頒布拠点を通して各地に頒布されている。頒布拠点は地域の主要な教会が多く、職員もボランティアがほとんど。拠点から教会までの輸送は「バイブル・バン」と呼ばれるワゴン車で行う。聖書は1999年頃までに各地の都市部にほぼ行き渡り、今後の課題は地方での浸透という。中国ではクリスチャンの80%が地方部に住むといわれている。
聖書協会は、中国政府公認の教会のほか、家の教会や地下教会など非公認の教会にも聖書を配布する。公認教会の会員数はプロテスタントとカトリックを含めて2200万人とされているが、非公認教会と合わせると推定9100万人(世界キリスト教年鑑)以上といわれており、?小平以降は比較的「自由」を得たとはいえ、信徒の爆発的な増加を続ける教会にとっては未だ厳しい現状だ。
聖書は公認教会の売店で購入できるが、一般書店での販売は禁止されている。ただ、個人の聖書所有の権利は保護されているため、教会が多い都市部では比較的簡単に聖書を手にすることができる。一部で「聖書購入時に氏名と住所を登録する義務がある」と聞いたことがあるとの指摘に対し、クア氏は「私も聞いたことがあるが、事実ではない」と否定した。販売価格は1部12元(約150円)前後だが、経済力のない地方部ではまだまだ高価なため、支援が必要とのこと。また、クア氏は、一部の業者が標準価格の3倍以上の値段で聖書を販売しているケースがあると明かし、「あってはならないこと」と話した。
聖書の中国語訳はUBSの前身で1804年に設立された英国海外聖書協会の初プロジェクトだった。1819年にスコットランド宣教師ロバート・モリソンによって完成された初の中国語訳聖書は、プロテスタント教会によって126年間使用され、7万人が救われたという。
毛沢東が中華人民共和国の国家主席に就任した1949年以降、中国教会は文化大革命(66−76年)など未曾有の大艱難時代を経験した。教会は閉ざされ、多くの牧師と信徒が逮捕、投獄された。クア氏は当時スパイ容疑などで逮捕された知人の牧師を紹介して中国のクリスチャンが経験した痛みを説明すると、獄中の牧師たちは記憶していた聖書のみことばで励まされたと強調した。
クア氏は、日本に来て感じたこと、日本聖書協会の渡部信総主事が日本キリスト教協議会(NCC)中国委員会の委員長であること、クア氏の2人の娘のうち妹が日本語を勉強して1年になることなどに触れ、日本の教会に対する信頼と関心を示した。