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申鉉錫牧師の「日本宣教の夢」(7)

2006年10月19日10時03分
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申鉉錫(シン・ヒョンソク)牧師

 桜美林大学(obirin Univ.)の元人気講師、申鉉錫(シン・ヒョンソク)牧師のコラム第7回目です。 このコラムは、韓国オーマイニュース(http://ohmynews.com/)に掲載され、当時大きな反響を呼びました。在日韓国人牧師という立場から、同師が日本宣教への夢を語ります。


◆はじめに


 前回に引き続いて今回も遠藤周作の「日本泥沼論」について、また日本の福音宣教の障害について筆者の考えを述べることにする。


◆?.日本宣教における「日本泥沼論」


 遠藤周作は彼の小説『沈黙』において、日本におけるキリスト教福音宣教の困難さを「泥沼」、「沼地」として認識した。彼はカトリック教徒であったので、福音というキリスト教の苗を腐らせてしまう日本の土壌に絶望したのではないし、諦めてもいない。只彼の考えの中には「沼地」に植えても腐ってしまわない苗を作り出したかったのだと思う。それが何であるかというと、後で述べるところの厳し過ぎる父性的なキリスト教ではなく、母性的な優しいキリスト教を伝えることであったのである。


 ?父性的なキリスト教とは何か。罪を問うキリスト教である。罪を問うキリスト教は日本人の心情に合わない。日本の民衆に迎えられるキリスト教は優しいキリスト教でなければならず、倫理的・人格的なキリスト教は敬遠される。キリスト教には十戒という戒めがあるが、その中の第一戒は「あなたはわたしのほかに、なにものも神としてはならない」である。もしキリスト教徒がこの戒めを守らなければ罪を犯すことになる。従ってキリスト教徒たる者が、第一戒を抜きにして伝えることは許されない。そこで遠藤周作が考えたのは、日本の民衆に受け入れられやすい母性的なキリスト教を提唱しようとしたのではないか。


 ?母性的キリスト教、そのことを立証する作品が『沈黙』であり、信仰の弱い者やイエスを裏切った者さえも寛大に許し給うキリストを描いた作品である。この作品では、キリストを裏切っても人間の弱さのゆえに罪を問うことはない。罪を怒る義が問われないからだ。


 他にも彼の書いた作品に『海と毒薬』、『死海のほとり』があるが、これらの作品にも、人間の弱さのゆえに犯した罪を罰することなく、うやむやにしてしまう内容(『海と毒薬』)があり、イエスというキリストは、専ら人間の苦しみに同情する「同伴者」(『死のほとり』)として描かれている。『死海のほとり』の一節に「ラビ教師や預言者たちはいつも人間の弱さを責め、神の怒り、神の罰の恐ろしいことを威嚇するように説いたが、イエスはそんなことは一度も口にしなかった。……神は預言者たちの言うようにきびしい山や荒野にかくれているのではなく、辛い者の流す泪や、棄てられた女の夜のくるしみのなかにかくれているのだと教えた」という件がある。


 先に書いたように、遠藤周作の説く神は母性的な神として、罪を怒ることなく、人間の弱さに同情し、その苦しみに同伴者として付き添うだけの神である。


 日本の代表的神学者の北森嘉蔵は『愁いなき神』のなかで、遠藤周作の母性的キリスト教提唱についての遠藤自身のことばを紹介している。「さてここで、遠藤周作の有名な神の考え方が出てまいります。―中略―江藤淳氏との対談です。これは『沈黙』が書かれたあと、非常に注目されている頃に、自らが自分の全作品を解説したものとして、私なども大変に注目したものですが、その主題が何であったかというと、『父の宗教から母の宗教へ』ということなのです。つまり、今までのキリスト教が神を父なる神として性格づけ、そして父の厳しさ、父の怒りというようなものと結びつけ、キリスト教を説いてきたのは、誤りであった、こういうことをしておれば、少なくとも日本では絶対にキリスト教は根づかないと、まず申します。そして一種の革命が要るというのです。本来のキリスト教が現れ、特に日本にキリスト教が根づくためには、神が父から母に替わらなければならないというのです」と。


◆?.変質されたキリスト教


 遠藤周作の説くキリスト教は変質されたキリスト教である。かれの神は母性的な神として、罪を怒ることなく、人間の弱さに同情して、その苦しみに同伴者として付添うだけの神である。


 日本にもたらされた本来のキリスト教は、遠藤の説くセンチメンタルなキリスト教ではなく、人間の罪を背負って十字架にかかり、父なる神の怒りに打たれ、身代わりとなって死んだイエスである。聖書は、ガラテヤ人への手紙第13章の13節において、「わたしたちのためにのろいとなって、わたしたちを律法ののろいからあがない出して下さった」と証言している。


◆?.日本の沼地を沃土に変える


 遠藤周作の「日本沼地論」は、福音宣教の困難さという観点からは説得力を持つ。しかし、日本という「沼地」を沃土に替えることが出来るという可能性については語っていない。ひたすら妥協し、自分をかえて相手に自分を合わせていくことを勧めるのが精一杯の働き掛けである。


 日本のキリスト教指導者の中には、日本の「沼地」を「豊作の地」に替えるためのビジョンを持った方々が大勢おられるのを喜ぶものである。「遠藤周作の『沈黙』以来、日本は福音伝道の『沼地』であり、『良い地』ではなく『悪い地』である、と思いこんでいる。そして収穫のない不毛の地であると決めこんでいる。しかし主イエスが『収穫は多い』と言われているように、国民の九九パーセントがキリスト教でないということは、この国は凶作の地であるどころか、収穫をまっている豊作の地なのである。問題は主イエスが言われているように『働き人が少ない』ことなのである」。(古屋安雄著『日本伝道論』)


◆おわりに


 日本の「沼地」を「豊作の地」に替えるためには、先ず韓国の伝道者が日本をよく知ることであり、また御霊の力によって日本の伝道者と協力して愛の実践を行うことである。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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