世界教会協議会(WCC)は、3月28-29日、アルゼンチン首都ブエノスアイレスの神学校ISEDETにて「クリスチャンの信仰とエコロジー-エコ・エキュメニカル神学に向けて」というセミナーの一環として行われたクリスチャン・ジャーナリストジム・ホジソン氏へのインタビューを発表した。セミナーでは「エコ神学」という概念が提唱され、人間と地球の関係性について神学的見解に基づいた真摯な議論がなされた。
ジム・ホジソン氏は南米およびカリブ地方で広範囲な分野でクリスチャンジャーナリストとして活躍してきた。2000年以来、カナダユナイテッドチャーチのカリブ・南米デスクを担当し、最近では南米およびカリブ地域プログラムコーディネーターとして活躍している。過去25年間にわたって、同氏は教会関連の多様なメディアにわたって記事を執筆し、さらにドミニカ共和国とメキシコで記者活動を繰り広げることもあった。ブエノスアイレスのセミナーでは、同氏に関して、南米における現在の主要な課題・進展している教会活動などについてインタビューがなされた。以下がWCCが発表したインタビューの内容となっている。
Q 南米諸教会で注目されている課題はどのようなものが挙げられますか?
南米では、地球生態学の課題を多様な段階において強調してとりあげています。海外企業によるアルゼンチンでの鉱山採掘問題、水資源の問題、土地利用の問題、農薬問題など地球環境問題と言われる問題が広範囲にわたってどれも重要視されています。また大豆などアルゼンチンから海外へ輸出される穀物に関しては、常にアルゼンチン経済に関わる大きな問題となって存在し続けてきました。
ブラジル出身の神学者・哲学者で現在リオデジャネイロ州立大学(UERJ)教授を務めるレオナルド・ボフ氏は、世界の「エコ神学」学者として先駆的な役割を果たしていることで知られています。また同氏はボリビアについても詳しくご研究されています。同氏によると、ボリビアでも南米と同様に経済を最優先とし、原油やガス、鉱物資源を追求することによるボリビア政府と地元地域社会の葛藤が見られるようです。
「母なる地球」という概念は南米・ボリビアだけではなく、現在地球上すべての人類が地球との関わりを考える上で、良く知られた概念となってきています。権力のある人々は、企業利益中心に物事を考えるため、ひとつの大陸の中で大きな国を切り離して、そこだけを考えようとしてしまいがちです。たとえば、南半球であれば、南米からブラジルだけを抽出し、南アフリカから南アフリカ共和国だけ、アジアといえばインドと中国という風に大きな国だけを切り離して、そこだけ対象国として考えがちになってしまいます。そのように権力主義によって動く世界によって、大陸の中でひとつの国だけが切り離されて扱われるので、ひとつの大陸の中での一体感を培うことが難しくなっているといえるでしょう。
Q 諸教会にとっての気候変動問題というのは何を意味するのでしょうか?
気候変動における難民問題が取り上げられると思います。2050年までには世界中で気候変動による難民の数が2億人に到達すると予測されています。ですからこの問題は非常に重要で、緊急に取り組むべき問題です。京都議定書制定時には、気候変動対策にかける費用が莫大すぎるとして回避していたような対策についても、真剣に取り組み、より短期間で結果を出そうと各国政府が取り組み出しています。
先進各国は科学技術に大きな信頼を寄せてきましたから、これらの諸問題についても同様に科学技術に依存することで対策しようとしています。私たちがすべきことは多様な段階において働きかけることです。カナダの諸教会の信徒に問題を周知させ、実際に活動に取り組んでもらうようにすることも含まれます。一部はそれぞれの教派内で行う活動もあるでしょうが、よりエキュメニカルな場所において活動を行っていくことも大切です。
さらに諸教会の他社会団体とともに活動し、カナダ政府の政策にも影響を与えるようにしていくべきです。政府に働きかけるわけですから、これはハイレベルな会合への働きかけといえるでしょう。政府により影響を与えるために大規模な教育プログラムを組むことで他者の様々な声を包容し、より多様な人々の声が政府に届けられるようにすべきです。
Q 諸教会にとってハイレベルな指導者会合とつながる理想的な方法はあるでしょうか?
多様な段階で様々な方法があると思います。一部の人々が政府に訴え、また国連に問題を訴えることもすばらしいでしょうが、私たちは教育活動を展開し、人々を活動に取り組むようにさせる働きかけを行うことで、人々にまず問題を理解してもらう取り組みをしていかなければなりません。
環境問題に取り組むには科学的問題を理解できるように取り組まなければならないでしょう。そして、宗教に関わる人々は、この200年間にわたって科学から有る程度の距離を置くようになってしまいました。しかし世界の今日の諸課題の状況を見ていますと、現在は信仰者と科学者が互いに新たな関係性を構築する需要が出てきていると感じます。
またカナダユナイテッドチャーチのティンダル議長によりますと、科学というのは私たちに実際生じていること以上のこと、あるいは以下のことを伝え、また将来どのようになるかの予測を伝えますが、信仰というものは私たちにあるべき姿、起こるべきことについて伝えます。私たちは聖書に基づき、世界で遠隔に追いやられている人々、貧しい人々の利益を害することなく、取り組むべき働きについてそれぞれの課題について聖書の原則を当てはめて対策していくことができます。さらには貧しい人々の利益のために働きかけることもできます。
Q そのような問題と5月に開催される国際エキュメニカル平和会議(IEPC)とはどのような関わりあいがありますか?
―これまでの世界で、土地・資源をめぐって多くの紛争が生じてきました。エキュメニカル平和会議では、「地球に配慮する」という点で平和構築について議論することで、資源の問題と強い関係を結びつけることができるでしょう。アルゼンチンの会議では、気候変動対策が生態学的な視点からだけではなく、経済・政治・文化そして神学的視点に結び付けて取り扱われたことがとても重要な意味を成しました。
カナダ諸教会の問題に戻りますと、私たちは現在これら諸課題について共に関係性を構築していくことで対処しようとしています。カナダではその歴史上の植民地支配政策によって不幸な運命を辿ってきた土着民族の方々がいらっしゃいます。カナダの諸教会はそのような土着民族の方々との関係を回復していこうと努力しています。過去10年間にわたり私たちは皆このような歴史問題について学び、現在は土着民族との和解への取り組みを行っています。今後の課題は私たちがどのように「正しい関係」を回復していくかにあるといえるでしょう。
Q 1983年にバンクーバーで行われたWCC総会の歴史的遺産としてこのような動きが見なされているといえるのでしょうか?
多くの人々はあの総会を良く覚えているでしょう。当時カナダの土着民族がキリスト教の信仰をどのように実践していくかに焦点が置かれる会議がなされました。当時の会議によって「目に見えていなかったもの」を公然と目に見えるようにし、人々がこれらの問題をそれぞれ深く考えるようになりました。そして関係性の問題は私たちと地球、男性と女性、異なる階級に属する人々など多様な関係性において「正しい関係」を模索していくようになりました。
カナダユナイテッドチャーチでは外部の団体と提携関係をもつとき、たとえばアルゼンチンメソジストチャーチと提携する際などに「正しい関係」を模索してきました。さらに誠実で、透明性のある、侵略主義に基づかない対話による平等な関係性構築を模索してきました。それで、平和の問題に戻って考えるとき、そこに取り組むべき多くの「関係性」に関わる問題があることに気づくのです。
Q 今現在「目に見えない問題」で特に目に見えるようにするべき問題は何でしょうか?
女性に対する暴力の問題については長期的に取り組んでおり、より目に見える形にして行く必要があると思います。女性に暴力をふるう男性による文化をどのように変革させていくか―これだけでも重大な課題といえます。他にも構造的・システム的な人種差別問題も残っています。教育や就業に関する差別も残っています。
カナダではまだ教育システムにおいて異なるシステムが併存しています。土着民族の社会の教育システムは多くの違いが生じています。そして、人々はそのような問題を提唱していくのは不可能であると考えがちですが、実際はそうではありません。人々の不平等な取り扱いや情報の共有の欠如の問題は、紛争や平和を乱す原因を作り出します。
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