ガザ地区で活動するNGO「パレスチナ農業開発協会(PARC)」渉外担当のアハメド・スーラーニ氏が来日して21日、東京都豊島区のNPO「パレスチナ子どものキャンペーン」事務局でガザ地区の現状を語った。アハメド氏は「人権が侵害されており、パレスチナの独立国家の樹立と平和が危うい。イスラエル側の主張する『平和』ではなく、パレスチナの住民が実感できる公正な平和が作られなければならない」と力を込めた。
2008年末から09年初頭のイスラエル軍による侵攻で、約50平方キロメートルもの農地を破壊されたガザ地区。人口増加率が3〜5%と世界で最も高く、約350平方キロメートルに約200万人の人口を抱えるこの地区の住民は、土地、水、食糧の絶対的な不足と、外からの圧力により、恐怖と先行きの不安に苛まれている。
イスラエル側は、ガザ地区内に幅500〜1000メートル、長さ約55キロメートルに及ぶバッファ・ゾーン(緩衝地帯)を設置している。皮肉にも、その土地は「ガザの食糧庫」とも言える最も肥沃(ひよく)な大地。農民は、大切な生活の場を追いやられた。バッファ・ゾーンの幅は、イスラエル側の公称では300メートルとされている。だが、随所に設置されたイスラエル軍の監視塔から発砲の危険があるため、1000メートル以内には近寄れないのが現状だ。また、地中海に面するガザ地区では漁業も盛んだったが、現在は海岸から2キロまでしか船が出せない。海に出た漁船がイスラエル軍に拿捕(だほ)されることも少なくないという。さらに、2000年からは、ガザ地区とヨルダン川西岸地区の行き来ができなくなっている。
アハメド氏は、ガザ地区の抱える最も大きな問題の一つが「水」だと話す。ガザ地区では水について、質と量の両面で問題を抱えている。ガザ地区の水のうち75%は塩分濃度が高いため、飲用にも農業用にも使うことができない。イスラエル側から注いでいる川は、同国による搾取と地球温暖化による降水量の減少で干上がってしまった。さらにガザ地区南部では下水の処理設備が少ないため、生活排水や屎尿(しにょう)の下水がそのまま溜め池に流れ込み、衛生面でも深刻な状況にあるという。アハメド氏は、「水や土地を公正に分け合えてこそ平和と言えるが、実際はそうなっておらず、平和への歩みが進んでいるという実感がもてない」と語った。
PARCは、ガザ地区で農民や女性団体への支援を続けている。これまで、貧しい農家などから作物を購入し、現地の貧しい人々に配布する活動や、外来種に頼らず在来種を自家採取して食糧の生産を目指す「種子バンク」事業などを行ってきた。今春からはパレスチナ子どものキャンペーンと協力し、農業研修と育苗の事業を開始する予定だ。アハメド氏は、「農民の自給自足を可能にする持続的な開発支援が必要だ」と強調した。
アハメド氏は、日本政府について、「中東、パレスチナに多大な経済支援をして下さっていることに感謝する」としながら、「パレスチナの問題解決のため、より政治的な役割を果たして欲しい」と要望した。
最後にアハメド氏は、「希望を失わないことが私たちの唯一の武器。小さな灯火であってもそれを掲げていきたい」と決意を語った。