ある夜、ユタ州の小さな町ピードモント近郊に人工衛星が墜落した。早速、陸軍が現場に駆け付けるが彼らがそこで見たものは住人たちの死体の山だった。さらに死体の回収に向かった兵士たちも即死する事態が発生。何らかのウイルスの発生を予測した陸軍大将は、各分野の権威である5人の学者たちを緊急招集、ウイルス研究チュームを組織し、謎のウイルスの正体解明を命じる。
学者たちはこの病原体を「アンドロメダ」と命名し、研究を開始。やがてアンドロメダは人体に侵入して、血液を一瞬のうちに凝結させる恐るべきウイルスであることが判明する。風が吹くスピードで、また川が流れるスピードで動物も人間もばたばたと倒れて行く。
鳥インフルエンザ(2005年)と騒がれて間もなく馬インフルエンザ(07年)、またすぐに豚インフルエンザ(09年)が世界中に蔓延した。この確率から行くと2年後には、再び新種のインフルエンザに襲われるということなのだろうか。そして、その新種は今までのものよりはるかに猛毒性をもっている可能性があり得るのだ。
このコラムを書いている日(12月21日)にこのようなニュースが報道された。
ツルの越冬地として知られる鹿児島県出水市でナベツル7羽が死んでいるのが見つかり、その4羽から「H5N1」型の鳥インフルエンザウイルスが検出されたことがわかった。他の3羽からも陽性結果が出た。
また、12月16日に富山県高岡市の公園で死んでいたコブハクチョウから検出されたウイルスも毒性の強い「H5N1」であることが確認された。
邦画「感染列島」が制作され、08年のカンヌ国際映画祭でストーリーが話題を集め大きな反響を受けた。今まで人類が経験したことの無いウイルス感染がこのまま国内に広まるならば、半年後には感染者数が数千万人に上るという、残酷な事態が起こるという予想が告知された。残念ながら、せっかくの邦画なのにハリウッド・パターンで終わっている。スーパー科学者が奇跡的に解決してしまうのだ。
この邦画は、韓国で内容が改ざんされるという問題が起こったそうだ。無断で編集作業を加え、結末まで変更した改ざん版を国内上映していたのだ。本来ならウイルスを克服したハッピーエンドだが、韓国版ではウイルスが徐々に広がる様子だけを見せるエンディングにしたのだ。
私にとって、この改ざん問題は非常に興味深く感じられた。それは確かにほとんどの映画ではヒーロー科学者が現れ、不可能な難問を解決して見せるのだが、現実ではどうなるのだろうか。韓国の改ざん版は、他のエンディングもあり得るし、その方に現実味があると考えたということなのだろうか。
現代の旅行スタイルにより、また新型インフルエンザは一日あれば世界中に広まる交通網、つまり高速道路、高速鉄道、航空システムがすでに備えられている。今まで経験したことがないような猛毒性を持った増殖性の早いウイルスであるならば、例えばこのアンドロメダのようなものなら、もしそれがユタ州の山中にある人口千人ほどのピードモント町でなくロサンゼルス群(人口1億人:しかしカナダからメキシコまで市と道路でつながっている)に落下したなら、一日にして米国の全住民が死ぬことになるだろう。アンドロメダのような病原体は、この映画で描かれているように専門家が研究し、対策する時間を与えてくれるほどのんびりしてはいないはずだ。
歴史的に有名な伝染病にはどのようなものがあったか。
1.古代ギリシャではべロポネソス戦争初期にアテネを襲った疫病により、大勢の市民が死亡し、やがて戦争に敗れる。
2.日本では737年(天然痘)と995年(はしか)に大規模な伝染病が発生し、群を襲い多くの高官も死亡、政治がマヒ状態に陥った。
3.14世紀、ヨーロッパで流行したペスト。当時のヨーロッパ人口の3分の1が死亡。
4.アステカ帝国はスペイン人コルテスが率いた600人がこの文明を滅ぼしてしまったのだが、彼らの上陸前に人口が80%減少していた。それは天然痘に似た天然痘ではない疫病によったとのことである。
5.スペイン風邪は1918から19年にかけて猛威を振るったインフルエンザの一種だが、感染者6億人、死者4000万から5000万人を出した。
当時の人口が18億から20億人とされていて、スペイン風邪には世界人口の3分の1が感染したことになる。フランス南部で発祥したのだが、米国でも50万人が死亡した。このスペイン風邪が、もし航空旅行が盛んな今日に起こったら地球の全人口が感染する可能性は決して低くない。何せ、当時は旅客機で旅行する人口が無かったにもかかわらず、これだけ広く感染したのだ。死者が100万人や200万人で済むとは思えない。スペイン風邪は鳥インフルエンザの一種だそうだが、再び世界を襲わないとは言い切れない。
黙示録には「見よ。青ざめた馬であった。これに乗っている者の名は死と言い、その後にはハデスが従った。彼らには地上の4分の1を剣とききんと死病と地上の獣によって殺す権威が与えられた」(6:8)とある。地上の獰猛な獣たちが、すべてのゾウ、ライオン、トラが人々を直接襲っても人口の4分の1を殺すことはできない。死病とは獰猛なインフルエンザかも知れない。
「たいまつのように燃えている大きな星が天から落ちてきて、川々の3分の1とその水源に落ちた・・・水はにがくなったので、その水のために多くの人は死んだ」(8:9〜10)。興味深いことにアンドロメダは天から人工衛星によって運ばれてきた。大きな星は病原体を運んで川々に落ちるのかも知れない。アンドロメダは川に達すると、見る見るうちに水を赤く染め、その生物を殺して行ったのだ。
平野耕一(ひらの・こういち):1944年、東京に生まれる。東京聖書学院、デューク大学院卒業。17年間アメリカの教会で牧師を務めた後、1989年帰国。現在、東京ホライズンチャペル牧師。著書『ヤベツの祈り』他多数。