各地で青少年によるホームレスの襲撃事件が多発している。そんな中、上智大学グローバルコンサーン研究所は9日、大阪市西成区のあいりん地区(釜ヶ崎)でホームレス支援を続ける「野宿者ネットワーク」代表の生田武志氏を招いての講演会を同大で開いた。生田氏は、「(青少年の間で)自分や人を傷つけなければ自分の居場所がない、ということが広がっているのかもしれない」と話し、加害者となる少年たちの心の問題を指摘した。
生田氏は、大学生だった1986年にあいりん地区の支援活動を知り、夜回りに参加するようになった。野宿者一人ひとりとの対話が、現在まで続く活動の原点だという。講演の合間には、小中高生が大人とともに野宿者に声を掛ける「子ども夜回り」の様子を収めた映像を上映した。
生田氏は、加害者となる少年たちの特徴について、「ハウスがあってもホームがない」と説明した。ハウスとは住居のことで、ホームとは、自分が本当に苦しいときに心の許せる人や居場所のことだ。生田氏は、リストカットの原因も自分の居場所がないために起こる「生き苦しさ」にあると指摘した。
野宿者ネットワークでは、大阪をはじめ全国の小中高生に野宿者問題を出張講義する活動を01年から続けている。地域によって子どもたちの反応は様々だが、すべての小中高で野宿者問題を扱う授業を取り入れた川崎市では、襲撃事件がそれまでの半分以下に激減した。
生田氏によると、野宿者は近年増加傾向にあり、現在その数は全国で2万人以上にふくれ上がっている。近年の傾向として、女性と若年層が増加しているという。若者の貧困状況については「(若者が)実家に住んでいるという形で隠されている」とし、全国で相次ぐ高齢者の所在不明をめぐって浮上した詐欺事件について、今後さらに同様の事例が増える可能性があると懸念を示した。
野宿者の健康状態については、大阪で活動した国境なき医師団のスタッフが「大阪の野宿者のおかれている医療状況は海外の難民キャンプのかなり悪い状況に相当する」と語った実話を紹介し、その深刻さを強調した。餓死や凍死、また治療を受ければ治る病気などによって死亡する野宿者が、大阪市内だけで年間200人以上に上るという。
ある寒い冬の夜、夜回りに参加した高校生が、道の真ん中で倒れている野宿者を発見した。救急車が来るまでの間、皆でその体をさすっていたが、駆けつけた救急隊員によって死亡が確認された。「前日に、1時間前に、もっと早く行っていたら助かったのに」。帰宅後、高校生たちはパニック状態になったという。
生田氏は、「(野宿者の)努力が足りないとは全然思えない」と強調し、「野宿になったのは自業自得だ」などといった野宿者に対する児童や保護者の偏見と無理解を指摘した。また、「話しかけられても無視しなさい」「目を合わせてはいけない」といった周囲の大人たちによる刷り込みが、少年らの野宿者に対する共感の欠如を生み出し、結果として襲撃行為を助長しているのではと話した。
生田氏は、社会の構造をいす取りゲームにたとえ、野宿者を生み出す要因が個人の努力でなく、いすの数の問題、つまり構造的な問題にあると指摘した。特に、行政による生活保護(セーフティーネット)の回復、企業の雇用形態の改善が必要だと訴えた。
また、住所がなければハローワークが相手にしない、就職しても1カ月先の給料が入るまでしのげないなど、事実上、野宿者が自力では元の生活に復帰できない状況を指摘し、衣、食、住にわたる行政や市民の援助が必要だと説明した。
最後に生田氏は、「みなさんの中には野宿者と関わっていやなことがあったかもしれない。しかし、2万通りの人がいる」と話し、野宿者への理解を求めた。