米国に本拠を置くキリスト教ニュースサービス、コンパス・ダイレクトニュースは6日、インドの南西、モルディブ共和国(人口約31万人)でキリスト教徒の公立学校教諭が校内でキリスト教を布教したという噂が広まり、保護者から抗議が殺到したため、この教諭を同国の別の島の学校に異動させたという現地教育委員会の発表を報じた。
報道によると、先月29日、児童の保護者や住民が同校に詰めかけ、教諭が授業で十字架を黒板に書いたとして抗議した。
学校側は地元教育委員会に対応を要請。住民が興奮状態で教諭に危険が及ぶと判断したため、同委は同日中に教諭を州内の別島に避難させた。教諭は数日中にも避難先の公立学校に正式に異動となる予定。
この教諭は社会科の担当で、4年生の地理の授業で方角を教える際、黒板に方位記号を書いた。この授業を受けた児童の一部がこれを十字架のようだと指摘し、下校後、教諭がキリスト教を教えていると保護者に報告。これを聞いたイスラム教信者である保護者が学校に抗議したという。
学校側は調査チームを設置して教諭から事情を聞き、30日に説明会で調査結果を報告すると保護者らに通知した。
ところが、説明会前日の夜、保護者や住民らが学校に多数集まり、直接交渉を学校側に要請した。その際、興奮した保護者の一部が教諭を校外に連れ出そうと激しく詰め寄ったため、学校側は危険な状況と判断、同日中に教諭を別の島に避難させた。
この教諭はインド南岸のケララ州出身のキリスト教徒。同州や隣接するタミル・ナードゥ州からは、キリスト教学校で高度な教育を受けたキリスト教徒約7万人が駐在の教師や医師としてモルディブで働いているという。
モルディブではイスラム教以外の布教や公共の場での宗教活動が法律で禁じられてる。同国は約1200の小さな島から成る海洋国家。イスラム教スンナ派が国教で、住民のほぼ100%が同派を信じている。イスラム教徒が国民のほぼ100%である国は同国とオマーン、サウジアラビアだけといわれている。
同国に駐在する他宗教信徒は自宅内でのみ個人的な宗教活動を行うことが許可されているが、家庭集会は認められていない。
同国は大統領行政府の長である(首相は1975年以来空席。大統領が行政府の長を務めている)。任期5年。議会が候補者を選出し国民が信任投票を行う。前回選挙は2003年10月に行われ、ガユーム大統領の続投(6期目)が決まった。
モルディブは保守系イスラム教徒のガユーム大統領が30年にわたり単独政党制で国家元首を務めたあと、2008年からは複数政党制のもと、自由主義の新党モルディブ民主党からナシード氏が新大統領に選ばれた。
一方、ガユーム議員率いる右派のモルディブ人民党は09年の総選挙で議席の過半数を獲得している。同国は大統領制を採用している。
ナシード大統領は基本的人権や言論の自由、複数政党制などを初めてうたった新憲法が制定するなど他文化や宗教に友好的であることから、人民党など他の保守派政党からは国家の尊厳や歴史的独自性を損なうとの批判を集めている。