「世界で実証済みのこんなにすばらしい伝道ツールを、ぜひ教会で活用してもらいたい」。今年、腹話術の発展に最も貢献した人に送られるアスキンズ賞を日本人で初めて受賞した日本腹話術師協会創立者の池田武志さんはそう語る。子ども用テレビ教育番組「セサミストリート」などで日本でもお馴染みのソフトパペット(布製で口を開閉できる人形)を使った福音宣教の働きを日本に広め、日曜学校の活性化を助けようと06年、クリスチャンパフォーマー集団「ワンウェイストリート・JJ(Japan in Jesus)」を立ち上げた。教会で教えるリーダーを育てるためのセミナーやワークショップを通して、すでにいくつかの教会でパペッタリーの導入が始まっている。
「パペッタリーをただの人形だと頭から馬鹿にしないで、それを見ている子どもたちの目の輝きを見てほしい」。95年から米シカゴ近郊で開催されている世界最大のパペットミニストリー大会「クリスチャンのパペッタリーと腹話術の国際祭典(通称「アイ・フェスタ」)」には、米国内だけでなく世界60カ国以上から1000人以上のクリスチャンが毎年集まる。その半数以上を占めるのが小、中、高校生の若者たちだ。イベントを主催する米ワンウェイストリート社の創立者デール、リズ・ボンセッゲン夫妻は、パペットミニストリーの普及活動のため、これまでに世界45カ国を訪問。現在では、イギリスをはじめ25カ国でワンウェイストリートの働きが独自に発展を遂げている。
日本ではこれまでに06年と07年の2回、海外で活躍する一流の腹話術師を講師に招いて、「国際パペッタリー&腹話術ミニストリーセミナー」を開催した。07年には、日曜学校の教師らを対象にしたレッスン講座を東京で1年間、月1回のペースで開講し、教派を越えて15教会から24人の受講生を集めた。さらに、各教会の要望に合わせて無料の訪問セミナーを実施するなど、本格的な普及活動を展開している。
池田さんは94年10月に受洗。その後は本業である俳優業の傍ら、これまで練習を積んできた朗読や人形劇、腹話術の技術を活用して教会内での伝道活動に取り組んでいた。活動の転機は98年、米ラスベガスで世界でもトップレベルの腹話術師を招いて開催された「べガス腹話術師コンベンション」に参加したときのこと。パフォーマンスのあまりのすばらしさに、世界における腹話術の技術の高さ、楽しさをプロの腹話術師として日本国内に普及させることをその場で決意した。日本における腹話術師の育成や腹話術の社会的地位の向上を目指し、00年に日本腹話術師協会を創立。世界で活躍する腹話術師を招いての国際大会を01年から毎年開催しているほか、加盟団体による各地での公演活動を積極的に続けている。
現在の課題は、パペッタリーや腹話術に関心を持つ若い世代が少ないことだという。「もっと若い人たちにバトンタッチしていく必要があります」と池田さん。夢は、全国の小中学校に腹話術のクラブができること。そして、日本のすべての教会にパペットミニストリーのチームができることだ。学校の先生と生徒がゲーム感覚で腹話術を習得できるような学習ツールの全国配布も計画している。
「ワンウェイストリート」という名前には、「わき道にそれず、ひたすら純粋に、神に向かってまっすぐ一方通行で伝道の道を進もう」という意味が込められている。「子どもたちが自分から日曜学校に来たがるような魅力ある場を作ってあげたい」と期待は膨らむ。実際にパペットの活用をはじめた千葉のある教会では、日曜学校の子どもたちの間でパペットが人気を呼び、導入後、継続的に参加する子どもたちの数が増えているという。
「セサミストリートを子どものときから見ているわけだから、やろうと思えばできるはず。人形は数千円で手に入るし、ちょっとした指導をすればすぐに始められます。教会でぜひ活用してもらいたいです」
いけだ・たけし:高校卒業後上京し、劇団「人間座」、「俳小」、放送表現教育センター等を経て、ニューヨーク・アクターズ・スタジオのメソッドを学ぶ。俳優として、これまでのテレビ、映画、CM出演は800本を越える。1998年からラスベガスやケンタッキー等での国際腹話術フェスティバルに出席。2001年から毎年、世界・腹話術の祭典「国際交流フェスティバル」を主催。NPO法人日本腹話術師協会会長。日本パペットセラピー学会名誉理事長。