「教会に行かなくなった若いクリスチャンたちに福音を伝えたい」。若者に届く福音の伝え方を追求し、2年前にジーザス体験型サイト「ブランド・ニュー・ライフ(Brand New Life)」を立ち上げた若手伝道者だんな雄作さん(31)。東京大学在学中にクリスチャンとなり、卒業後は広告代理店、映像制作会社に勤務。今年3月に神学校を卒業し、4月から本格的な教会活動に乗り出した。
「いまの若者の集中力は3分です」。若者向け説教では映像や図解を交えつつ、聴衆を飽きさせない工夫を随所に散りばめている。ビジネスの現場で、わかりやすく伝える技術を鍛えられたことが教会でも生かされている。
今年7月からは特に現役東大生の伝道に力を入れている。「どんなに高い学歴や多くの財産を手に入れたとしても、結局は死んでしまう。高学歴ならではの悩みに寄り添うことも神から与えられている自分の役割です」
学生時代、イエス・キリストとの出会いがあまりにもうれしく、受洗後まもないうちから東大での伝道に明け暮れた。学内で聖書研究会を立ち上げ、クリスチャンになって4カ月とたたないうちに法学部の後輩を洗礼へと導いた。
東大にはミッションスクールの出身者も多い。あるとき、バイブル・スタディの立て看板を興味深くじっと眺めていた一人の女子学生を目撃した。そのときには声をかけることもできず、結局その学生が集会に来ることはなかった。「あのときの光景が忘れられない。きっかけさえあれば、誰かがポンと背中を押してくれればクリスチャンになりたいという学生は、実は少なくない。みんな(真理に)飢え乾いている」
ブランド・ニュー・ライフを始めたきっかけは、受洗した教会で味わった疎外感だった。「なぜ教会ではわざわざこんなに難しい話をして聖書を伝えているのだろう」。キリスト教用語ばかりを使ったわかりにくい牧師の説教、上から目線で話してくるベテラン教会員の存在。若者が救いを求めて教会に来ているにもかかわらず、彼らがそこを離れるしかない現状を目の当たりにした。
「多くのクリスチャンが洗礼を受けて1、2年で教会を去ってしまう。統計を見れば、卒業クリスチャンが国内に何百万人もいる計算になる。そのうち一人でも教会に戻ってもらえたらと思う」。2001年からメーリングリストで聖書エッセイの配信を始め、2003年には自前でホームページを立ち上げた。ITがもともと得意だったわけではない。しかし、「どうしても伝えたいものがあるから」。若者に福音を届けるためにIT技術は欠かせない。メールの送信もままならない全くの初心者の状態から、セミナーに通っては少しずつ専門技術を学んでいった。
松尾芭蕉の提唱した有名な俳諧理念の一つに「不易流行(ふえきりゅうこう)」という言葉がある。「俳句の精神は永遠に変わらない。でもそのスタイルは時代に合わせて変えていい。キリスト教もまったく同じだと思う。福音の本質は変えちゃいけない。でも礼拝スタイルや説教スタイルは時代に合わせて変えてもいい部分のはず。いまの日本の教会は、変えていいものと変えてはいけないものとの境界線の意識が低いのではないか」と指摘する。
以前は牧師の説教を聴いても、それが今自分の抱えている問題とどのように関係しているのかがわからなかったという。「キリストの命を感じることができず、洗礼後すぐに教会の脱出ボタンを押しました」。しかし、東大YMCA学生寮の先輩を通して、「福音は生き方そのもの」であることに気づくことができた。
証人とはギリシア語で殉教者の意味を持つ。「たとえば仕事から疲れて家に帰ったとき、大変だけどお皿を洗ったり、子どものオムツをかえたりして妻に仕える。そのように僕たちは毎日の生活の中でもプチ殉教ができる。日常の小さな殉教が家庭の人間関係を変え、学校、職場、やがては社会全体さえ変える力を持つと、僕は信じています」