【CJC=東京】香港カトリック教会の陳日君(ゼン・ゼキウン)引退枢機卿は、教皇ベネディクト十六世が中国のカトリック者に宛てた書簡は、中国の教会の存在に新たな1章を記したものだ、と語った。しかし宗教の自由に関して教皇によって設立された基準は水で薄められ、あいまいなものにされていると言う。
陳氏は2年前、枢機卿定年の75歳に達した際に辞表を提出していたが、中国本土の教会が置かれた事情を考慮して、教皇が任務継続を要請、今年4月15日に辞任を受理した。後任はジョン・湯漢(トン・ホン)協働司教。
宗教の自由擁護のために闘ってきた陳氏は、中国本土の司教に、妥協策を永久に続けることはできない、として教会のために責任を勇敢に果たすよう呼びかけた。その中で「中華人民共和国の兄弟」に「恐れるな。歴史が課した責任を負いなさい。この危機にあって、教会を復活させられず、長い間、衰えさせた。あなたがたは歴史に責任があり、神の裁きの前に汚点なしにしっかりと立つ心構えをしなければならない」と述べている。
陳氏は、「包容」という時代の潮流に流されることを懸念している。それでは中国の教会に対する多くの働きかけが無駄になってしまうからだ。今日、北京政府は台湾との関係が融和したことから、聖座(バチカン)と国交を持つことへの関心が薄れているようだ、と陳司教は見る。
カトリック系アジア・ニュースとの会見で、中国の教会と聖座は、北京政権とはどのような形でも妥協受け入れを止め、教会の宗教的な自由を守るために、教皇が発した指示を実際に効果あるものとする時が来た、と語った。
陳氏は、とりわけ公認教会の愛国会へのあからさまな従属を懸念している。それは教皇自身と教皇が2年前に中国のカトリック者に宛てた書簡に『平手打ち』するものだ、と言う。
陳氏は、北京と聖座との外交関係をどんな犠牲をはらっても樹立することの重要性に条件を付けている。中国に宗教の自由が存在しないなら、ただ幻惑されることになるのではないか、と見ている。
陳氏は次のように語った。
70年代遅くから80年代初めに掛けて、中国の教会と関わりを持つ人が増えた。その結果、中国の教会の実態が国外の教会に影響を与えるようになった。公認教会と地下教会との対立が香港や聖座にも持ち込まれた。
香港では、中国の教会を援助する人たちが2グループに分かれた。地下教会を支援する人たちは、ほとんどが公認教会には反感を持ち、逆に公認教会に好意的な人は地下教会を不信の目で見る。
中国の教会と深く関わった人たちは、現実を目にして自然に地下教会の側に立った。教会に対する信頼があつく、信仰のために苦難に耐えていたからだ。政府に従属しているとして公認教会を疑いの目で見ている。
しかし香港には中国の事情をあまり知らない人や、中国で活動したことのない若手宣教師がいる。その人たちは中国本土を旅行し、公認教会を、そこで賛美する会衆などを見てすぐに感動する。本物だと信じた自由に勇気づけられ、地下教会を、新たな現実を受け入れようとしない頑固さがあると非難するようになった。
聖座でも同じことだ。これまでにも国務省と福音宣教省との間で食い違いがあった。国務省は外交関係回復のため和解を図り、福音宣教省は教会が自由で真正の存在であることを目指している。
中国の教会と普遍教会(カトリック教会)との交流の結果、特に本土に教育のために渡った人々の見解から、公認教会は分派的でも分離した存在でもない、と判断する。意図的にローマ(バチカン)から離脱した状態に置いているのは政府なのだ。人々は、心の中では、私たちと同様、カトリック信仰を守っている。
もちろん、今でも事態を複雑にして置きたいとか一方の側に立つグループも存在する。
普遍教会が確固とした現実をさらに認めるなら、いわゆる公認教会の受け入れを始める時だ、と言える。このことは、公認教会に属する信仰者復帰の始まりにつながる。高齢の司教たちへの赦免と司教としての認知を教皇に要請する。
聖座はこの問題については寛容な姿勢で応じてきた。必要な調査を終え、正当な地下教会司教の合意を得て、多数の司教を認知した。
教皇書簡の意図を阻止するために全力を上げようと中国側は動いている。しかし私は聖座も書簡支持の姿勢をもっと強く打ち出すべきだったと思う。聖座は、教皇の指示を明確なものにするためにもっと時間を掛けるべきだった。
陳氏は、現役引退を表明した際、今後は中国への奉仕に集中する、と語っていた。「中国の教会、特に各教区についてもっと知りたい。問題の多くは教区レベルのものだ。また神学校設立に関するこれまでの働きを中国でも生かしたい。一方で、教師を求めているサレジオ修道会が運営するアフリカの大学にも行きたい。しかし77歳になって、どれほどのことが出来るのかはわからない。健康が今後数年は持ってくれることを望む。そして奉仕が出来なくなったら、修道会のホームに入るつもりだ」と陳氏は締めくくった。