「あなたがたの間で人の先に立ちたいと思う者は、みなのしもべになりなさい。」(マルコ10:44)
このプログラムもいよいよ最後のレッスンになりました。今までの十一のレッスンで、自信を持つ、ハンディキャップに勝つ、エンスージアズム(熱意)、期待(ピグマリオン)効果、願望達成の秘訣・求めること、幸福の秘訣・与えること、成功意識を身につける秘訣、成功するための目標設定、問題解決の道、ストレスを解消しよう、そして成功を導く人間関係について、お話ししてきました。そのすべてのプログラムが、あなたの人生に幸せと成功をもたらす鍵となると信じています。
最後のプログラムは、リーダーと自己変革です。簡単に定義するなら、“リーダーとは、後に従う者がいる人”を指します。ですから、“リーダーは、従う者を持つに値する人”です。あなたもきっと自らの努力で、こうした立場とリーダーシップを獲得された一人であると思います。
ところで、この地球始まって以来、最も多くの従う者を持ったリーダーがいます。生きている時だけではなく、二〇〇〇年を経た今日まで、彼に従う何十億という人々がいるのです。彼は真のリーダーシップについてこのように教えました。
「あなたがたの間で偉くなりたいと思う者は、みなに仕える者になりなさい。あなたがたの間で人の先に立ちたいと思う者は、あなたがたのしもべになりなさい。」
リーダーは偉大なしもべです。これこそが理想的なリーダーの姿です。リーダーは“行け”と鞭を手にして、後から追い立てることはしません。リーダーは“行こう”と言って、旗を手にして道を先導します。先頭に立って前進します。
リーダーは従う者たちを、仕事のパートナーとみなし、報酬の分け前を正しく受けているかを確かめます。そして全体のチーム・スピリットをたたえます。
リーダーは人造りをする人です。下の者が大きく育つのに力を貸すのは、大きな人物が多いほど組織が強くなっていくことを心得ているからです。
コンサートに少し早めに行って、彼らの長くてうるさい、イライラするような練習を聞いてみて下さい。ところが、カーテンが上がる数分前、コンサート・マスターが最後の指示をすると、今までのバラバラの雑音が、一つのまとまった音楽として流れ始めます。そして、指揮者のタクトに合わせてすばらしいシンフォニーが奏でられ、聴衆を魅了してしまうのです。
成功する人間も同じです。彼らはリーダーであり、チーム全体を統率し、皆を引っ張っていくだけの姿勢と行動力を備えています。彼らは一部の限られたニーズだけにとらわれず、常に全体のニーズに応えられるように準備しているのです。
では、そのような強力なリーダーシップを、どのようにしたら身につけることができるのでしょう。また、最高のリーダーシップとは何なのでしょうか。先ず、最高のリーダーになるための四つの秘訣をお話ししましょう。
第一に、人間的なあたたかさを持つことです。
このプログラムを読んだあなたはきっと、そのような人に変身していると確信しています。
あたたかい部屋に人は引きつけられます。あたたかな春の日は、万物の復活を予感させてくれます。あたたかい笑顔は、一緒にいたいという気持ちにしてくれます。あたたかい応対は、感謝の念を抱かせます。しかし冷たい応対は、憤りを醸し出します。あたたかい握手は、活力を示しますが、冷たければ、活気の無さを感じさせます。あたたかい性質は、魅力があって人を引きつけますが、氷のような性格は、どこでも歓迎されません。
リーダーにはあたたかさが必要だということは、今も昔も変わりません。あたたかさをはっきりと出し、快く相手を受け入れるリーダーは、丁度橋を架ける人のようです。最高水準の人々がその人の周りには集まってきます。
月並みなリーダーと非凡なリーダーの違いは、この橋を人が架けてくれるのを待つか、自分で架けるかの違いだけです。人と人の間に橋ができると、あたたかさはみんなの自発的な行動や計画を促します。メンバーとの関係にあたたかさがあると、メンバーにとって最善を尽くそうという気持ちが生まれてきます。そして自主的に自発的に行動するようになります。
有能なリーダーの目には輝くものがあり、メンバーに優れた業績を達成するように強く要求することが、メンバーに信頼を置いていることの何にも勝る証拠となるのです。
リーダーのあたたかさはまた伝染するものです。皆の間で、リーダーに対する心からのイエスという返事が多くなり、ノーが少なくなります。あたたかい雰囲気、明るい表情、積極的で前向きの姿勢、それは真のリーダーが持っている特質です。
そのようなリーダーは、リーダーシップをとることを恐れません。リーダーシップには四つの要素があります。
基本は「要望性」―つまりリーダーとは命令することができるし、命令しなければなりません。
しかし、それだけではリーダーシップをとったとは言えないのです。そのほかに「通意性」が必要です。仕事をしていく上において、必要とされる情報や知識を提供することによって、なぜそれをやらなければならないのか、根拠、必要性、重要性を伝えます。
また、もう一つは「共感性」です。メンバーの立場や気持ちを配慮し、行動を思いやる人間に対する関心です。
そのようにあたたかい人間味あふれる人格から出てくるリーダーシップは、当然「信頼性」を生み出します。その時に、組織は力強いパワーで動き始めることは必然の結果です。
第二に、リーダーの権威です。
ここでいう権威とは、ワンマンになり、怒鳴り散らすという意味ではありません。権威とは、自分の仕事に対する知識と、自分自身への信頼、またメンバーに対する信頼、そして知識と信頼を伝達する能力を統合させたものです。
リーダーになっていく過程において大切なことは、まず「感じをつかむこと」です。自分には、知識と経験と知性とリーダーシップが備えられていると実感すること、いや本当にそれを信じなければなりません。間違っても、自分にはリーダーの資格がないとか、誰も自分の言うことなど聞いてくれないと思ってはいけません。
このリーダーになるフィーリングは次の三つのステップによって得ることができます。
A.謙遜の気持ちを持つことです。
リーダーになることは威張るためではありません。先にこの地球最大のリーダーのことばを紹介しました。「あなたがたの間で偉くなりたいと思う者は、みなに仕える者になりなさい。あなたがたの間で人の先に立ちたいと思う者は、あなたがたのしもべになりなさい。」この謙遜こそ、リーダーシップの権威の秘訣です。
B.学べることは何でも学び取ることです。
自分の仕事は商品知識はもちろんのこと、メンバーからも、行きずりの人からさえも学ぶことができます。この文章を読まれていることは、あなたが学ぶ姿勢を持つ人である証拠だと信じます。意欲を持って学ぶ時、今までとは違う知識が身につき、自信を持ったリーダーになれるのです。
C.自分自身にいつも以下のことを言い聞かせることです。
(1)私は人を引っ張っていくだけの能力と知識がある。
(2)私は自分を信じている。
(3)私はメンバーを信じている。
(4)私は立派なリーダーである。
(5)私は、私を強くして下さる方によって、どんなことでもできる。
いつも口に出して告白し繰り返せば、感触をつかむことができます。規則正しく、しかも大きい声で語るのです。大きな声を出せば、身体全体が反応し、身体が覚えます。自動車を運転する人は、車の中で大きい声を出すと良いでしょう。
D.落ち着いた態度を養うことも大切です。
性急な話し方や行動は、神経質な印象を与えますから損です。いずれにせよ、落ち着いて行動し会話すれば、心も落ち着き平静になれるのです。性急すぎると思えば、もっとゆっくり、もっと穏やかに、もっと明瞭に話をする訓練をして下さい。
体のあらゆる動作を完全なものにするために、立ち上がる動作、歩き方も含めてリーダーらしく(わざとらしくなく)成長して下さい。ゆったりと開放的なスタンスで立って、視線を直接相手に向けるのです。特に視線は大切です。少なくとも三〜五秒は相手を見るようにしましょう。アイ・コンタクトはそれ以下の短い秒だったら意味がありませんので、三〜五秒間は、相手の目をしっかり見ることができるように訓練して下さい。
あなたが尊敬する人の歩き方、座り方、立ち方、話し方を真似て、スターになったつもりで振る舞ってみるのです。姿勢や態度を良くすれば、気持ちの持ち方は自然にその後についてきます。
外観をもっと良くできないかも考えてみることです。減量すること、あるいはもっと太ること、ヘアスタイルを変える、洋服の色や着方を変える、ことばの癖を直すなど、いくらでもその気になればリーダーとして自分を変身させることができます。要するにやる気の問題です。もし、こうしたことを実行する場合は、自分は何か良いことを、さらに良くするためにしているのだ、という確固たる考えで、やるべきことを、やる気になって実行して下さい。そうでないと、自分がピエロのように思われて、返って惨めになる場合があるからです。堅苦しくなく、打ち解けた調和のとれた状態で仕事に打ち込む時、顔も身体も自然とあなたに風格を与えてくれます。
E.しかし、何よりも権威を身につけるためには、有力な模範になることです。
他人に望むと同じように、率先して一生懸命働くことです。高揚した気分と達成感を引き出せば、現実に深い権威は身につきます。それによって自然に権威ある行動と態度が生まれてくるはずです。
第三に、相手の話を良く聞く技術を身につけることです。
コミュニケーション能力は、リーダーのもう一つの要素です。カレン・ホーネイは、“人と人との関係は、われわれの方で相手に近づくか、相手から離れるか、あるいは対抗するかのいずれかである”と言いました。相手の話を良く聞くための秘訣は以下の通りです。
A.話し手に注意を集中することです。次に何を言おうかと考えたり、ことば尻を捕らえて反対してはなりません。
B.聞くことです。相手が話している時は、ただひたすらに聞くことです。相手がこれから何を言おうとしているか分かっているとよく言います。確かに分かることもあります。しかし、そこがポイントなのです。会話というものはただ情報を分かち合えば良いというものではありません。人々はそれによって、お互いを理解し合おうとしているのです。相手が「何を」言おうとしているのかを知っているかも知れません。しかし、相手が「なぜ」それを言おうとしているのかが大切なのです。相手が言おうとしていることに対して、どんな感じを持っているのか、本当に理解しているのでしょうか。相手がそれを熱心に話そうとしているのはなぜなのでしょう。相手の話に神経を、心を集中すれば、そのメッセージを十分受け取ることができるのです。
C.ことば以外のコミュニケーションを受け入れることです。顔の表情、態度や姿勢などから、ことば以外のメッセージを聞くことができます。
D.推測したことを確かめることも大切です。“つまりあなたが言いたいことは…”“私が理解するところでは…”と確認することです。
E.メッセージ全体に答えることが重要です。もし、相手が“よろしかったら、私があの人に電話をしてもいいですよ。でも私がしない方がいいと思うけど…”と言われたら、そのメッセージの両方の部分に答えるために、どうして電話をかけたがらないかを尋ね、相手の申し出に対して礼を言い、自分でかける旨を正確に伝えることです。
あなたが良い聞き手になれば、人々もまたあなたの話を良く聞き始めるでしょう。
第四に、リーダーは人々や自分自身を勇気づけ、励ますことが肝要です。
人々を励ますことは、リーダーの働きの中でますますその比重が高まっています。人々は勇気づけられたいし、励まされたいのです。意気阻喪した人々の気持ちを高揚させるリーダー。指導者の励ましのことばに対する熱狂的な反応は、大衆行動の場合特に顕著で、人々は大勢の群衆の中にいると、大胆になり、気高くなったように感じるのです。リーダーは長期にわたり、ためらうことなく、声に、顔の表情に、身振りに、態度に熱意を込めて、人々を鼓舞し、彼らが勇気を出して立ち上がる手助けをするのです。
だから、リーダーは自分及びグループが望んでいるものが何であるかをしっかり把握し、常にビジョンを示すことが必要です。リーダーの目標を、グループの人々が完全に理解し、目標を達成することによって得られる利益を、メンバーがはっきりと感知し、自分たちもそれによって幸福になれることを確信する時、強烈なパワーとエネルギーが生まれてくるのです。目標は常に、簡潔かつ魅力的な方法で、メンバーに訴え、各自の心に強烈に印象づけられることが重要です。目標を正しく理解し、従属者に示す時、あなたはリーダーとしての一人者になれるのです。
それは見せかけのものであってはなりません。本気でダイナミックな、希望に満ちた喜び、やり抜く決意に裏づけされた熱意に燃えていなければなりません。熱意は自分自身を支えるだけでなく、人々にも伝染します。だから、リーダーは肉体的な活力と、目標への強固な意志を備えています。そこから熱意が生まれ、熱意が伝染していくのです。
良きリーダーは自分が熱狂者であることを恥としないばかりか、直接的にそうでなければならないことを知っています。彼の熱意が、影響力の尺度になっているのです。究極的には、熱意はリーダーの信念や人格に深く結びついているのです。悲観論者やニヒリストは、リーダーになることはできません。リーダーは熱にとりつかれた人々です。
第五に、リーダーは成果を上げなければなりません。
結果を出すことが絶対条件です。つまりグループの目標が確実に達成されることが必要です。不決断を決断に換え、無関心を熱心な行動に移し、できるだろうかという気持ちを、さあやろう!やれるぞ!という実行力へ持っていくことです。このような好ましい結果をもたらすことが、リーダーの特権であり同時に義務なのです。“彼はやった!”という賛辞を、リーダーは必ず受けなければなりません。
リーダーは知識をため込むだけでなく、それを正しいと思う方向に向かって、断固として実行に移すのです。人々はリーダーに行動を期待します。力強く活気に満ち、効果的に正しく働き、何のためらいもなく実行し、結果を生みだしていくリーダー、それがあなたなのです。
心からあなたの人生の成功と繁栄をお祈りします。
(C)プレイズ出版
榮義之(さかえ・よしゆき)
1941年鹿児島県西之表市(種子島)生まれ。生駒聖書学院院長。現在、35年以上続いている朝日放送のラジオ番組「希望の声」(1008khz、毎週水曜日朝4:35放送)、8つの教会の主任牧師、アフリカ・ケニアでの孤児支援など幅広い宣教活動を展開している。
このコラムで紹介する著書「輝き・可能性への変身」(2000年、プレイズ出版)は、同師が「ラジオ番組 希望の声」シリーズとして出版したもの。机上の空論ではなく、著者自身がその生涯において実現し、今も継続している生きた証しを紹介している。