日本のプロテスタント宣教150周年を迎える今年、賀川豊彦が神戸のスラム街でキリスト教伝道と貧困活動を始めてからちょうど100年になる。東京と神戸では昨年から記念プロジェクトの実行委員会が立ち上がり、賀川に関連した様々な記念行事を実施している。
そんな中、東京プロジェクトが推進する賀川豊彦献身100年記念シンポジウムが29日、東京都港区の明治学院大学白金校舎で開催された。大型連休中にもかかわらず、賀川に関心を持つ大勢の人々が会場に詰め掛け、賀川への関心の高さをうかがわせた。最上敏樹・国際基督教大学教授(同平和研究所長)による基調講演の後、賀川に詳しい牧師や大学教授ら4人がパネリストとして発言した。
阿部志郎氏(神奈川県立保健福祉大学名誉学長・横須賀基督教社会館会長)は、賀川が「内に喜びを持って自分の身をささげた人」で、その喜びは「罪が神の愛によって赦されたという贖罪」によるものであると語り、賀川のすべての社会運動の根底にキリスト教信仰があったことを強調した。
また、関東大震災で、緊急支援に留まらずその後の復興までを視野に入れた賀川の支援活動に触れ、「今食べるもの」という必要にこたえながら、「人の生きるのはパンだけではないというメッセージを発している」と評価。賀川の内からほとばしるボランタリズムの根底にキリスト教信仰があったことを再度強調し、「いやしのわざは救いのわざと切り離すことができない、これが賀川の信仰であった」と語った。
阿部氏は、1世紀を経過して多くの日本人が賀川の存在を知らないことについては「当然」としながら、「しかし、(現代は)再び賀川を求めている」と語った。
元コープ神戸理事の野尻武敏氏(神戸大学名誉教授・協同学苑学苑長)は、「人格」と「兄弟愛(ブラザーフッド)」が賀川思想の根底にあり、兄弟愛とは、「愛、思いやり」であると指摘。この「愛、思いやり」に基づく活動が賀川の始めた「協同組合」であり、市場でも行政でもない、広い意味でのNPOである中間組織を代表する協同組合が「新しい時代を担う一つの大きな力になってきた」と強調した。
戒能信生氏(日本基督教団東駒形教会牧師)は、賀川が戦後すぐに実施した大規模伝道活動「新日本建設キリスト運動」で、2年9カ月の間に約1200回の講演を開き、延べ70万人以上を集めて約18万人を信仰の決心へと導いたことを紹介。一方で、贖罪愛の実践を徹底した賀川と、罪と赦しのみを語る伝統的な日本の教会との間にはギャップがあり、決心者の多くは日本の教会に根付くことがなかったことを指摘。日本のキリスト教会の中にある極端な独善主義に警鐘を鳴らした。
総合司会の古屋安雄氏(聖学院大学大学院教授・国際基督教大学名誉教授)は、「(賀川は)戦前から、日本の教会からは無視されていた」とし、「日本の教会が賀川の偉大さを知っていなかったのではないか。今になって知るようになってきたのではないか」と指摘。日本のキリスト者人口がいまだ1%に満たないことと、日本の教会が賀川に無関心であったこととは「無関係だと思っていない」と述べた。
シンポジウムを司会した加山久夫氏(賀川豊彦記念松沢資料館館長・明治学院大学名誉教授)は、賀川を「21世紀のグランドデザイナー」と表現。平和運動も福祉活動も協同組合運動も農業も宗教も賀川という「大きな物語」の「部分」であり、現代に賀川の志を継ぐ者がその物語の部分になりえるなら、「今もなお続いているメッセージは語られ続けなければならない」と語った。