【CJC=東京】「中国にキリスト者はどのぐらいいるのか」――誰もが知りたいこの数字に、米国の中国宣教団体『チャイナ・パートナー』の創設者ウエルナー・バークリン氏が、これまで算出しようとした例がないから、誰も答えられないのだ、と論文で指摘した。ASSIST通信によって紹介する。
問題は算出方法自体にある。「可能な方法がない。というのは、正確な統計がないか、社会的なり宗教関係の組織のデータがあるわけでもない。少なくとも私には心当たりがない」と同氏は言う。そこで、推定が幅をきかすことになり、少ないところで1600万人から2億人という数字が出て来る。誰も実際に数えた訳ではないから、分かってはいないのだ、とバークリン氏は言う。
「当局紙『新華』で、政府高官が中国のキリスト者は1億3000万人と語ったと報じられた」と福音派のブログに書かれていた、とバークリン氏は言う。その結果、複数の福音派指導者が「中国のキリスト者1億3000万人という数字は正式なものだ」と伝えた。
政府高官というのは、バークリン氏の知人の国務院宗教事務局のイェ・シャオウェン局長。「そこでその事務所に連絡をとったが、イェ局長は中国にキリスト者が1億3000万人いる、などと指摘したことはないとのことだった。これは北京を最近訪問した際に会った外務部のグォ・ウェイ部長が示したことと符号する。国営新華社通信にも当たったが、そのような報道はしていない。
本当の所を知りたい、と『チャイナ・パートナー』は中国の省、直轄市、自治区など31に調査チームを派遣した。西蔵(チベット)だけは行けなかったが、15歳から92歳までの7409人に聞き取りした。回答者数としては一般的な調査より多い、とバークリン氏。
調査チームは、無作為に、信じているなら、どの宗教かを聞いた。主に街頭や公園で聞いたが、列車、飛行機、地下鉄、タクシー、バス、ホテル、青空市場、百貨店や小さい商店などでも様々な人々に調査した。補充調査もした結果、中国のプロテスタント・キリスト者は3900万〜4100万人(誤差0・46%)と算出した。プロテスタントの比率が高いのは、福建、安徽、浙江、河南、陝西、江蘇、山西、広東の各省。
バークリン氏によると、回答者の大多数は仏教徒か無信仰者だった。無信仰者の多くは、無神論者ではなく、いかなる宗教も選ばないだけだとしている。共産党員と答える人も多い。道教、イスラム教(主に西部)の名も挙がっている。
同氏は、回答者の中に、中国では厳禁されている法輪功の会員だと答えた人がいたと言う。キリスト者だと明らかにした人も、プロテスタントやカトリックの公認教会の会員だと言う例もあれば、非公認教会員もいたが、調査では、そこは区分していない。
バークリン氏は論文で、調査が容易で、回答者が積極的だったのが印象的だったと述べている。「答えるのをためらった人はまずいないし、ためらった人も、中国の真ん中で普段聞かれることのない、変わった質問に驚いたのが理由だ。さらにキリスト教を信じている人はすぐに笑顔を見せるのが印象的だった。教会堂の存在を知らない人にはほとんど出会わなかったし、キリスト者も非キリスト者も同じようにそこの教会への道を教えてくれた。中国人はとても親切で助けてくれ、不安そうな感じはなかった」と言う。
調査を、厳密な意味で科学的な基準を満たすとは言わないものの、大きな意味がある、とバークリン氏は言う。「事実が何であるかは理解と洞察に役立つ。調査は都市部と農村部の双方で実施された。農村部で事前に予想された以上のキリスト者が見つからなかったのにはびっくりした。そこはほとんどが“福音派の観測者”が非公認の教会員がいる、と主張していた所だった」。
西側世界の人の多くは、非公認教会や「地下教会」(家の教会)の会員の多く(特に農村部の教会員)が現在では福音派のキリスト者と見なされている可能性に気づいていない、とバークリン氏は言う。その信仰は「異教的だったり、民間信仰と混じっている。『キリスト教信者』と呼ばれる人の多くは、全部ではないが、教育を受けてはいないものの特別な能力を持つと主張するカリスマ的な宗教指導者に従っている。そのような指導者の中にはイエス・キリストの兄弟だとか、再臨のキリストだと自称するものもいる」。
バークリン氏は、調査の目的を「それは事実に本当に関心を持っている人のためだ。根拠のない間違った数字が伝えられすぎた。関心を持ち関係のあるキリスト者として、私たちは、誠実に真実を見つけ、その事実を、何を言われようと提供しようとしている」と言う。
同氏は、中国政府教育部門が行った調査についても言及した。
調査を担当したのは上海の華東師範大学宗教文化調査センターのリュウ・ゾンギュ教授。2008年初め、同氏は、中国全省の4500人を対象にした調査結果を発表した。調査は12カ月にわたって行われたもの。ゾンギュ氏が、中国人約3億人が宗教を信じているか、霊的な関心を持っていると結論を出した、とバークリン氏は言う。それまでの公式数字は約1億人だった。
ゾンギュ氏の調査は、中国政府や中国基督教協議会が正式に認めている1600万人をはるかに超える4000万弱のプロテスタントが中国に現存していることを示すもの。同氏はさらに推定1400万人のカトリック者が存在すると明らかにしている。その中でバチカン(ローマ教皇庁)に忠誠を示す『地下教会』に属しているのが約1000万人、400万人が公認教会のミサに出ている。
ゾンギュ氏は、中国人が他宗教に比較してキリスト教に多く転向する理由が多数あると語った。「共産主義者が無神論政府を1949年に樹立して以来、宗教信仰を根絶しようとし、なお威圧的官僚主義的監督の下に宗教支配を続けている。伝統的な宗教をあまりに長く抑圧し、一方であまりに多くのセクトを生み出してきた。多くの若者にとって、(キリスト教をおいて)別の選択はなかった……キリスト教は、人々を改宗させることでは強い伝統があり、同時にキリスト教には入りやすい」。「キリスト教会には司祭や牧師に対する厳格な訓練計画がある。伝統宗教にいるよりも高度な教育や訓練を受ける例が多い」と言う。
道教、仏教、イスラム教も復活しつつある。バークリン氏は、数の問題に関する混乱は、政府が先に発表した、公認5大宗教の信者が約1億人いる、との公式数字にある、と言う。
もう一つの混乱の原因と見られるものは、ゾンギュ氏の調査で、約3億人が「霊的」「宗教的」問題に関心を持っているとしたことにある。「もちろんそれには公認5大宗教と民間宗教を合わせたものだが、必ずしも熱心な信者ではない」とバークリン氏は付け加えた。
バークリン氏は、ゾンギュ氏と『チャイナ・パートナー』の調査が「プロテスタントについては概略4000万人とほぼ同じ数字だったと言う。「だから最低1600万から最高1億3000万から2億という、これまでしばしば引用されてきた推定数も、その間のほとんどの数字もきちんと調査されたものではなく、単なる当てずっぽうだった」。