日本聖書協会と日本ウィクリフ聖書翻訳協会が共催で初めて開催する「聖書翻訳ワークショップ」が12日、東京・六本木の国際文化会館で始まった。ワークショップには、世界で唯一の聖書翻訳博士課程を持つアムステルダム自由大のローレンス・デ・フリス教授(翻訳学)が講師として来日。初日の講演では、様々な「翻訳の型」があることを説明し、型の選択において言語学的な視点だけではなく、社会的、文化的、あるいは神学的な視点が重要であるとして、スコポス理論について語った。
デ・フリス教授は講演で、翻訳が「非常に多数の選択から一つの訳を導き出すプロセス」と説明し、原本としてどの正典を選択するかから、どのように解釈するか、実際にどのような訳を当てはめるのかまで、翻訳において無数の選択性、多数性があることを語った。その上で、「翻訳の型」として、単に自由訳と逐語訳として分類するとき各翻訳に見られる本質的な相違を正しく取り扱えないとして、意味中心主義、解釈中心主義、形式中心主義(直訳主義)の3つを挙げた。
また、各翻訳の特徴を見分ける上で、言語学的な視点だけでは不十分で、社会的、文化的、神学的な視点が必要であり、その翻訳のスコポス(目標)に注目することが重要であることを説明。さらに、聖書翻訳のスコポスは、「典礼のための」「子ども向きの」といった機能的な要素に加え、その翻訳を行う共同体固有の神学的、解釈的要素が非常に強く影響していることを語った。
今回のワークショップには初日約40人が参加。聖書翻訳の理論と実践を扱うもので、デ・フリス教授の講演は英語で行われるなど専門性の高い内容となっている。日本聖書協会の渡部信総主事は、海外の翻訳専門家や、日本語の専門家が講師となる有意義なワークショップとなっており、これからは神学者や聖書学者だけで聖書を翻訳するのではなく、翻訳学の専門家の話を聞きつつ、より良い聖書を翻訳していきたいと語った。
ワークショップは13日も行われ、午前は東南アジアで実際の聖書翻訳に従事する日本ウィクリフ聖書翻訳協会の松村隆氏が講演し、午後からは再びデ・フリス教授が講演する。また、最後にはデ・フリス氏ら講師陣を交えての、参加者らによるディスカッションも予定されている。