千葉県ユニセフ協会主催の勉強会「世界の子どもたちの『叫び』に耳を傾けよう」が3月21日、同県の市原市勤労会館で開催された。今年1月に「イスラム国」(IS)に殺害されたとされるジャーナリスト・後藤健二さんが制作したDVDを鑑賞し、後藤さんが何を伝えたかったのかを考えようと企画された。初めには、参加者全員で、後藤さんや湯川遥菜さんをはじめ、紛争の犠牲になった人々のために黙祷をささげた。
同協会の福本朋子事務局長は、設立直前に東京都内で開催された後藤さんの講演会を訪れた。講演後、「千葉県にも、ぜひ後藤さんのような方に来ていただきたい」と、ホールにいた後藤さんに声を掛けた。「千葉県でも講演会などしていただけますか?」と尋ねると、「いいですよ」とその場で快諾してくれたと、当時のことを振り返った。以来、後藤さんは、たびたび千葉県を訪れ、県内各地で講演会を行っていた。
今回の事件を受けて、今まで関わった多くの人々から、千葉市にある同協会の事務所に連絡が入った。電話口で泣きながら、「何かできることはないか?」と話す人、「講演会に数年前に参加した。今回の事件は非常に残念だ」と連絡をくれる人・・・、その思いはさまざまだ。福本事務局長は、「後藤さんの講演会を通じて知り合った多くの人々は、千葉県ユニセフ協会にとって大きな財産。これからもユニセフは、紛争や内戦、飢餓、病気などに苦しむ子どもたちから目をそらすことなく、活動を続けていきたい」と話した。
今回の勉強会では、後藤さんが12年前に制作し、日本ユニセフ協会が監修したDVD「ようこそぼくらの学校へ」(NHK出版)を取り上げた。数カ国の子どもたちの様子を「学校」をテーマに作り上げている中から、イラク、アフガニスタン、シエラレオネに住む子どもたちの様子を鑑賞した。
アフガニスタン編では、内戦後、学校に行きたいと願う少女マリアムちゃんの話が語られていた。文房具、教科書はユニセフから提供されていたが、タリバン政権崩壊後、学校再開当初は数が足りなく、全ての生徒に必要なものが届かなかった。しかし、「学びたい」と願う子どもたちが学校へ押し寄せ、ごった返していた。その様子を生き生きと伝える映像と、内戦で傷ついた街の様子を映し出す映像、また当時のありのままのアフガニスタンが収められていた。マリアムちゃん一家を詳細に語った後藤さんの著書『もしも学校に行けたら』(汐文社)の最後は、「夕焼けのゆるい光に照らされたゴミ野原の中で、女の子が本を読む姿は眩(まぶ)しいほど輝いていました。(神様どうぞ彼女を導いてあげてください!)わたしは、そう願って眼を閉じました」という後藤さんの言葉で結ばれている。
西アフリカのシエラレオネの少年ムリアくんは、以前は少年兵だった。頬には、麻薬を埋め込まれ、まさに「殺人兵器」として、大人たちの手先になっていたのだ。しかし、ある時、軍から逃げ出したムリアくんは、山の中にあるキリスト教の宣教師が運営する更生施設で保護された。彼は過去を悔い、生まれ変わろうと必死で勉強し、祈りをささげた。「時々、人を殺す夢を見る」と話すこの少年は、決して消すことのできない大きな罪を背負いながら、神に赦しを乞うているようにも見えた。
情勢は落ち着いているかのように見える現在のシエラレオネだが、世界保健機関(WHO)の2014年の報告によると、同国の平均寿命は現在でも46歳。世界で一番寿命の短い国の一つとされている。ダイヤモンドの採掘国としても知られるが、後藤さんの著書『ダイヤモンドより平和がほしい』(汐文社)のタイトルように、「ダイヤよりも平和」と願う国民はまだまだ多い。
最後に福本事務局長は、「事件後、2011年9月10日に袖ケ浦市平岡公民館で行われた後藤さんの講演に参加した方から、当時の内容をメモしたものをいただきました。『世界で一番大切なものは何か?』と題したこの講演会では、後藤さんが『全ての人々に守られる13の人権』について、メモや原稿を読むことなく、スラスラと話を始めたのを覚えています。過酷な取材現場に足を向けていた後藤さんだからこそ、『人として守られるべきもの』が染み付いていたのだと思います」と話し、その13の人権についてメモを読み上げた。
▼生きる権利=何人にも侵されない、▼差別の禁止、▼食糧を得る権利、▼健康でいる(いられる)権利=正当な医療を受けられる、▼住むところを得る権利、▼自分の私的生活(プライバシー)を持つことができる権利、▼個人の財産の保有、▼信教の自由▼教育を受ける権利、与える義務、▼仕事を得る(する)権利、▼正しい裁判を受ける権利、虐待・拷問を受けることのない権利、▼政治的な権利と自由な表現が守られる権利、▼難民・避難民の権利
『ダイヤモンドより平和がほしい』のあとがきには、「わたしたちは、(新たな戦争に)なる前に戦争で傷ついた人たちに様々な方法で手をさしのべなければならないと思います。今、自分が生きているこの時を同じように生きようとしている人(隣人)に、わたしはまず何をしたらいいのか? この本が、そう考えるきっかけになってくれればと願っています」と記している。
「隣人を自分のように愛しなさい」と教える聖書。隣人の「叫び」を、命をかけて伝えたジャーナリスト・後藤健二さんのレポートは、今もなお著書や映像を通して、続いている。