同教授は17日、ワシントンD.C.で開催されたファミリー・リサーチ・カウンシルにおいて「神、中国と資本主義-中国におけるキリスト教は同国経済成長の主要素となり得るか?」と題して講演を行った。講演では、中国政府がキリスト教に対して解放的な政策を取ろうとしつつも、共産主義政権を転覆させる潜在力を秘めた信念体系であるとしてその統制に神経質になっている二面性があることが述べられた。
同教授の講演によると、中国政府はキリスト教が欧米経済が持続的成長を果たした大きな要因となっていることを認識しているという。そのため同政府はキリスト教に開放的な政策を取ろうとしつつも「キリスト教を政府の手によって統制しよう」としているという。政府当局では、東西ドイツ時代のベルリンの壁崩壊や旧ソビエト連邦での民主主義の進展に教会が多大な役割を成してきたことを良く認識しているという。
その上で同教授は「中国政府当局者らはキリスト教をある種の信念体系であると見なしており、政府が統制できなければ、潜在的に中国政府を転覆させる力があることを認識しています。しかし一方で、彼らは西欧社会で経済成長を導いてきたキリスト教を中国国内で抑圧しようとすれば、それもやはり中国政府の統制力を失うことになり得ることも認識しています。ですから彼らは中国国内でキリスト教を国益のために利用したいとは思っているのですが、一方でキリスト教が彼らの統制下になければならないとも考えています。そのバランスをどのようにとっていくかが現在の中国政府の課題でもあります」と報告した。
数年前に開催されたハーバード・ビジネスカンファレンスにおいて中国トップクラスの企業CEOたちがハーバード大学の学者たちに対し、具体的なビジネス成功法に関することよりも米国における経済成長とキリスト教のかかわりについて頻繁に質問してきたことを証しした。同大学で教育学修士号を取得した学者である同教授は、中国のトップ経営者たちにそのことを聞かれて大方のハーバード大の学者たちは返答に当惑し、うまく応えることができない様子であったことを伝えた。
ドイツの社会学者兼政治経済学者であるマックス・ウェーバーは19世紀に入って間もない頃に「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」を発表し、経済成長とキリスト教の関わりを論じている。その中でプロテスタントの信仰で美とされる生き方の実践が西欧社会の資本主義を発展させる主要な要因となってきたと論じている。
つまりキリスト教によって労働に関する美徳が説明されており、その結果その美徳に従って労働を成すことによって経済繁栄がなされるという。人々が神の召しにより労働を行っているという使命感と情熱をもって自分たちの仕事に打ち込むことが経済成長につながると論じられている。さらにマックス・ウェーバーはキリスト教が労働者の誠実さを高め、ビジネス取引・交渉事に不可欠な信頼関係を築き上げると述べている。キリスト教の教えに沿って生きることで、物質主義から離れ、隣り人に配慮し、また自身が最善の状態であるように尽くすようになると論じている。
世界の他のどんな諸宗教もキリスト教のような経済繁栄に直接結び付くような教えは行われていないとウェーバーは論じている。ヒンドゥー教のカースト制は人々が現状から抜け出せると言う希望を持って熱心に労働する意欲を阻害している。仏教もヒンドゥー教と似ている部分が多くあり、仏教徒は尊敬や服従をもって教えに従うように教えられており、和を保つことを支持するものの、変革を促進しようという動機が弱い教えになっているという。仏教では「欲」を持つことは根本的に誤った生き方であると見なしている。一方でキリスト教では「欲」を神様の栄光を伝えるための欲と自分が高慢になるための欲の二つに分類しており、前者は良いものであるが後者は悪いものであるときっぱりと分別している。
儒教では上下関係を重んじるため社会的流動性が高まらない。儒教的教えは政府の形態を維持するためにはキリスト教より大きな役割をなしているとウェーバーは指摘している。イスラム教は儒教よりもさらに上下関係を重んじている。イスラム教ではイエスキリストがもたらした自由の恵みではなく律法を絶対的に守ることを重んじている。一方キリスト教では律法の順守よりも他者の生活環境を高めるためにも神の愛によって他者を励ますことが重要であると教えている。
ウェーバーやその他学者そして現在では中国政府までも、キリスト教が経済成長に大きな役割を成していることを認識するようになっている。アメリカ正教会ラビのダニエル・ラピン氏は過去1000年間になされた科学的発見のうち9割はキリスト教諸国によってなされたものであると述べている。
講演においてジェイネス教授は、キリスト教の浸透は中国社会の道徳規準を高め、経済成長を導くための最善の希望となるだろうと述べた。中国政府では「国民の不品行」についても規制しきれないでいる深刻な問題であると見なしているという。同教授によると、ある中国政府指導者が同教授に対し、「もし北京に在住する中国人に電話帳を見てランダムに電話をかけ、2500ドル(約20万円)を支払うから指定したホテルに来て性的行為をしないかと話せば、おそらく3人に1人はその誘いに同意するだろう」と述べ、中国社会のモラルに関する懸念を露わにしたことがあったと証しした。
同教授は「中国政府は今日存在するような中国社会での不品行さが今後も継続して生じるようであれば、同国経済成長の力強さは継続することがないことを認識しています。そのため持続的経済成長のためにも国民、特に青年層に道徳を教育することが急務であると認識しています。中国政府がキリスト教を受け入れようとする動機は極めて純粋な動機からであるとは言い難いですが、国益のため、中国国民の品性を高めるためにキリスト教を受け入れようとしています。中国政府は同国の持続的経済成長のためにキリスト教に対してより寛容なアプローチを示していかなければならない必要性を認識しています」と述べた。
現在中国国内では1億人のキリスト教徒が存在すると見積もられている。そのうち7500万人は中国政府非公認の地下教会信徒であるという。中国のクリスチャン人口は毎年600万人~700万人の増加を示しているという。同教授は中国地下教会に対する弾圧について、「中国政府はキリスト教に本当に神経質になっており、統制しなければ政府を転覆する力があると見なしているからです」と述べている。
中国のキリスト教徒は大きく二つのグループに分かれている。独立した家庭教会に属する中国政府の承認を得られていない教会と、中国政府の承認を得た公認教会である。
同博士はこの二つのグループの大きな違いは、福音が18歳以下の人々に伝えられるのを許可されているかそうでないかにあると述べている。