「フィルミニの教会−光の軌跡−」展が、東京・新宿区にある「ギャルリー・タイセイ」で23日より開催されている。フランスの歴史的建築物に指定されるサヴォア邸、世界の建築史に残るロンシャン教会、日本では東京・上野公園内にある国立西洋美術館の建築やスイスの10フラン紙幣の肖像でも知られる20世紀の最も偉大な建築家ル・コルビュジエ (1887−1965)によるフィルミニ(フランス中部の町)のサン・ピエール教会の魅力を、設計、建築、完成に至るまでの図面や写真、模型などで紹介。光の教会ともいえるその実像を伝える。
1960年代、当時フィルミニは不況によって荒廃が進んでいた。復興を願った市長が再開発計画を立ち上げ、中心となる体育・文化ゾーンの設計をル・コルビュジエに依頼。「サン・ピエール教会」を手がけることになった。
60年に構想が練られたが、実質的な着工は73年であった。ル・コルビュジエ自身は65年に亡くなったが、生前完成させていた図面を元に建設に着手。78年に財政的な事情からいったん建設が中断されたが03年に再開。新たに障害者用のスロープや非常口を設けるなどの計画の変更を経て昨年11月24日に献堂した。一階には地元住人のための展示スペースとして、サンテティエンヌ市にある現代美術館からのコレクションを展示する予定。二階から上は教会として使用できるという。
建物は傾いた円錐状で頂部を斜めに切り取った形。中に入ると礼拝堂には東側に祭壇があり、その後ろの壁に設けられた小さな明り取りから光が差し込み、夜の星空のような輝きを放っている。「明り取りの配置についてル・コルビュジエの指示は特に無かったので、世界中で最も多くの人々が目にすることができる星座であるオリオン座の位置に取り付けられました」とギャルリー・タイセイを運営する大成建設株式会社の林美佐氏は説明する。
昼、塔の頂上にある筒状の明り取りから、柔らかに広がる円い光、角状の明り取りからは鋭く伸びる光が差し込んでくる。夕方には西側の壁の緑に塗られた四角い明り取りから入る光が、青草色に祭壇を染める。無機質と思われるほどさっぱりとしたコンクリート打ち放しの壁が、朝から夕方にかけて刻々と変わる光の軌跡によって豊かな表情を描き出す。
最初の宗教建築となったロンシャンの礼拝堂の設計を依頼されたとき、プロテスタントの家庭に生まれ、自身は熱心なクリスチャンではなかったル・コルビュジエはその依頼を一度は固辞した。だが、カトリック教会からの近代芸術運動を推進していたクーチュリエ神父の強い思いを受け、祈りの空間を作ることへの意欲をもった。サン・ピエール教会の依頼があったのは、ロンシャンの礼拝堂、ラ・トゥーレットの修道院という二つの宗教建築を手がけた後だったため、もう十分だと一旦は断ったが、「垂直」をテーマに高く伸び上がる教会堂を作りたいという思いにかられ、設計を引き受けることになった。
予算の都合で当初の計画より教会堂の高さはかなり低くなったが、イスラムのモスクを参考に上から光が降り注がれる空間とすることで、現実よりも「高さ」を感じられるように設計された。
林美佐氏は、「この教会の完成に半世紀かかった時間の流れと、一日の光の動きを体感して欲しいです」と語った。
入場無料。開廊時間は午前10時〜午後5時(入場は午後4時30分)。土日・祝日、4月28日〜5月6日は休業。7月6日まで。問い合わせは、「GALERIE TAISEI(大成建設株式会社運営)」(電話:03−5381−5510、住所:東京都新宿区西新宿1−25−1新宿センタービル17F)まで。