第3回「マイノリティ問題と宣教」国際会議2日目の11月19日、大阪弁護士会の弁護士で同会元副会長・日本弁護士連合会人権擁護委員会国際人権部元会長の丹羽雅雄氏が、「ヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムを生み出す原因は何か ―ヘイト・スピーチは歴史的に形成された構造的差別である―」と題して、二つ目の主題講演を行った。
著書に『マイノリティと多民族社会 国際人権時代の日本を問う』(解放出版社、2003年)、『知っていますか?外国人労働者とその家族の人権一問一答』(解放出版社、1998年)がある丹羽氏は、初めに、人種差別を禁止する法制度が存在しておらず、ヘイト・スピーチ(憎悪表現)や差別・排外主義が台頭している現状について述べた。
その上で、ヘイト・スピーチ、ヘイト・クライム(憎悪犯罪)を生み出す原因について、まず一つ目に、世界に問われた日本の「侵略と植民地支配」責任について論じ、二つ目に、日本の戦争責任・戦後責任、植民地支配責任の現状について、① 戦争犯罪に関する重要資料の焼却、② 東京裁判とニュルンベルク裁判、③ 戦後補償、という三つの観点から述べた。そして三つ目に、平和憲法秩序の空洞化を指摘。また、四つ目に歴史修正主義と草の根の差別・排外主義の台頭を挙げ、それに関して、① 教科書検定問題、② 歴史修正主義、③ 在特会という三つの点に焦点を当てた。五つ目として「平和憲法秩序の解体(改憲)と歴史修正主義は表裏」と述べ、それを① 改憲、② 村山談話・河野談話と歴史の修正、③ 戦争を推進するための愛国心教育の推進、④ 新自由主義経済政策としてのアベノミクスの展開、という四つの点から説明した。
丹羽氏は、アジアの人々との真の連帯と共同行動の質が問われているとし、「『戦争をさせない』『殺し、殺されない』『差別・排外主義は許さない』『歴史の改ざんを許さない』という共通の課題において、働く者と生活者、市民が強く結びついた国境を越え得る広範で深い『連帯のくさり』を作り出さなければならない」と主張した。
また、「加害の歴史認識のさらなる深化と人間の尊厳と平等社会の構築を基本とした国際的な市民間の交流と連帯を作り出すことが必要」「世界史の中の『「慰安婦」問題』『強制連行・強制労働』『南京大虐殺』『広島・長崎』『沖縄戦の実相』などの歴史的事実を問い返し、『侵略と植民地支配』と『敗戦』という加害の歴史的事実を教訓化することが必要」と述べた。
さらに、「私たち市民は、朝鮮半島分断の解消と、在日市民の地方参政権などの市民権や民族教育権を含む非差別・平等の権利保障を実現する必要がある」「日本、朝鮮民主主義人民共和国、韓国が『北東アジア非核地帯条約』を締結し、北東アジアに『非核化と平和の構築』を実現するための努力が必要」と語った。
最後に丹羽氏は、「加害の歴史認識の深化と歴史の清算、そして、不戦の誓いである平和憲法の堅持と人種差別禁止法の制定は、人種差別の撤廃と多民族・多文化の共生社会の構築にとって最も重要な課題」と結んだ。