14日、日本長老教会幡ヶ谷キリスト教会(東京都渋谷区)で日本長老教会社会委員会による震災勉強会が開催された。日本同盟基督教団小海キリスト教会(長野県)牧師の水草修治氏が「原発を聖書的観点から考える」と題し講演を行った。
東日本大震災による福島原発事故は、改めて原子力発電の安全性・必要性を問われる深刻な事態を引き起こした。水草氏は原子力発電という電力発電方法について、「人間の限界と罪ゆえに原子力の管理は不可能である」と警告し、原子力利用は人間のほうが神より賢いとし、マモニズム(拝金主義)に従うことになると警告した。
同氏は原発問題を聖書的原点に立ち返って掘り下げ、神がご自身のかたちとして創造された人(創世記1章27節)が、エデンの園の管理者としての使命を任されたにもかかわらず、「神のようになれる」という誘惑に負けて善悪の知識の木の実を食べたことは、人間の有限性を認めず、管理者としての分を認めようとしない人間の高慢さの原点を示していると説明した。
善悪の木の実を食べエデンの園を追放された人間から生まれたカインは、弟のアベルを殺害し、主の前から去って、エデンの東にあるノデ(さすらい)の地に住みついた(創世記4・16)。その地で人間による音楽文化や武器作りがなされるようになった。
一方カインの代わりにアダムに新たに与えられた息子セツの息子エノシュからは「主の御名によって祈る」ことが始められた(創世記4・26)。一方は神の下を離れ人間の知恵によって音楽を生み出し、武器を製造する文化を形成したが、もう一方は主の御名によって祈る信仰の生を生み出した。
創世記10章には地上で最初の権力者となったニムロデが登場し、11章ではバベルの塔が築かれたが、このことが高度な技術によって武装した権力、原発が国策として進められてきたことを象徴していると述べた。黙示録13章2節には「獅子のような口と熊の足をもった獣に大きな力の位と権威が与えられた」と書かれてあるが、国家権力にも「偽りの父」の影響があるのではないかと警告した。
また同氏は原子力発電には不正義が伴わざるを得ないことも指摘した。聖書では神を愛することと隣人を愛することは密接不可分であるが、原発技術は隣人愛に背く技術であり、都市の利便性のために田舎を差別し、現場作業員に危険を押し付けるエゴイズムであると厳しく非難した。
マタイ6章22節~24節には「からだのあかりは目です。それで、もしあなたの目が健全なら、あなたの全身が明るいが、もし、目が悪ければ、あなたの全身が暗いでしょう。それなら、もしあなたのうちの光が暗ければ、その暗さはどんなでしょう。だれも、ふたりの主人に仕えることはできません。一方を憎んで他方を愛したり、一方を重んじて他方を軽んじたりするからです。あなたがたは、神にも仕え、また富にも仕えるということはできません」、ヤコブ書1章14、15節には「人はそれぞれ自分の欲に引かれ、おびき寄せられて、誘惑されるのです。欲がはらむと罪を生み、罪が熟すると死を生みます」と警告されている。
「週刊金曜日」3月25日号の特集「原発震災」では長崎県立大シーボルト校非常勤講師の藤田祐幸氏が「エネルギー・経済統計要覧(1994年版~2009年版)」に基づいて作成した「発電施設の設備容量と最大電力の推移」のグラフが公開されたが、この一連のデータに基づくグラフでは、原子力発電がなくとも水力と火力発電で必要電力が賄われていることが明らかに示された。原子力発電で排出される莫大な温排水は地球温暖化の原因と言われる物質を大量に作り出し、使用済み核燃料の保管場所の問題も生じている。
水草氏はこれらの事実から、「原子力利用は人間が被造物の管理者としての分をわきまえることをせず、神になろうとして生じた技術であり、この技術を利用し続けることを推進する人たちは金銭崇拝の信者たちであり、偽りの情報で国民をだまし続けてきたといえる。私たちは、偽りを見抜き事実を知ることで、『管理者』としての分をわきまえた電力利用法を採用すべきである」と述べ、神に仕えながらも富に仕える偽りの信仰の姿を警告した。
また幡ヶ谷キリスト教会牧師の住田裕氏は水草氏の講演を受けて「キリスト者が金銭崇拝に支配されない国家を導いていかなければならないのではないか。私たちは『罪人である』というキリスト教ならではの大事な視点を忘れてはならないと思う。(社会問題について)聖書的視点に基づいて評価して良く発信していく必要があるだろう」とキリスト者の在るべきあり方について指摘した。住田氏は10月に「震災と新しいライフスタイル」と題した講演をお茶の水クリスチャンセンター(東京都千代田区)にて行う予定である。東日本大震災の惨事を経て、豊かさと繁栄を求める現代社会にあって、クリスチャンが今どのように生きるべきか問われている。
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