犯罪・非行の防止および犯罪者・非行少年の更生・矯正への貢献が認められた人へ贈られる「作田明賞」の授賞式が26日、ユーアンドエヌ(新宿区)で行われた。第8回目となる今年、最優秀賞には元参議院議員で千葉県知事などを歴任した堂本曉子(あきこ)氏、優秀賞にカトリック信徒でNPO法人マザーハウス理事長の五十嵐弘志氏、福島大学教授の生島(しょうじま)浩氏が選ばれた。
同賞は、2011年に他界した精神科医で犯罪学者であった作田明氏が10年に創設したもの。作田氏は、さまざまな統計から、犯罪が増加していたり低年齢化が進んでいたりするわけではないことを明らかにしつつ、法整備や裁判の動きについて厳罰化が進んでいることを危惧していた。むしろ犯罪や非行を減少させるには、予防、防止、矯正への取り組みが重要で、やり直しのきく地域社会と人権を重視した民主的社会の形成が必要との考えを持っていた。
今回、優秀賞を受賞した五十嵐氏は前科3犯。刑務所に3回、合計20年服役した。3度目の服役中に、慰問や文通を通してシスターや神父、牧師などと知り合い、キリストと出会った。マザー・テレサを敬愛し、カトリック教会での受洗に導かれた。14年5月に設立したマザーハウスでは、刑務所を満期で出所した元受刑者や、矯正施設などに収容されている人たちへの更生支援、就労支援、住居の確保などを行っている。また、ボランティアらと共に「ラブレタープロジェクト」として、受刑者との文通をしている。
授賞式で五十嵐氏は次のようにスピーチした。
「私のような者に(作田明)賞をいただき、ありがとうございます。私は中学生の時に両親が離婚し、母方の実家に預けられました。あることがきっかけで犯罪に手を染めるようになってしまいました。母親や叔父さん、家族や親類に自分のことを信じてもらえず、私自身も家族に疑問を持つようになっていました。覚せい剤と殺人以外の犯罪はほとんどやっているような人間です。刑務所に入ると、その時は『今度こそ更生するぞ』と思っていても、出所するとまた罪を犯すようになっていたのです。まるであり地獄のようでした。もがき苦しんでも、誰かの助けの手がなければ、なかなか回復はできないと思っています。受刑中に、あるおじいちゃんのお世話を私はしていました。そのおじいちゃんから言われたことがあります。『俺は刑務所の中にいた方がいいんだ。ここにいれば、食べるものもあるし、寝るところもある。お前みたいに、話を聞いてくれたり世話をしてくれたりするやつもいる。外に出たら誰もいないんだよ』。その言葉を聞いて、自分が出所した後、あのおじいちゃんたちの帰る場所を作らなければと思い、NPO法人を立ち上げました」
また、五十嵐氏はスピーチの中で、法人を立ち上げる前、100カ所以上の企業に履歴書を送ったが、雇ってくれる企業は1つもなかったと話した。マザーハウスを立ち上げた後も、さまざまな場面で「犯罪者とは関わりたくない」という心ない言葉を投げ掛けられ、傷ついたという。そんな時、教皇フランシスコが少年院で少年の足を洗ったというニュースを知った。「この人なら僕の気持ちを分かってくれるのでは」と思い、手紙を出した。すると、教皇から返事が来たという。そこには、「日本の受刑者のために私が祈っています。五十嵐さん、どうか私のためにも祈ってください」とあり、大きな勇気をもらったと話した。
同賞審査員である元刑事でジャーナリストの飛松五男(とびまつ・いつお)氏は言う。「私は、犯罪を暴(あば)き、悪い人がいれば捕まえる立場の人間だった。刑事になったばかりの時はあまり気にならなかったが、数年たつと、捕まえた犯人のその後や周りの家族のことが気になるようになった。日本から犯罪がなくなることは難しいかもしれない。しかし、今回賞を受けたような方々がもっと増えてくれば、再犯を防ぐことができ、犯罪率を下げることができるだろう」
授賞式後、五十嵐氏は本紙のインタビューに対して、次のように語った。
「このような栄誉ある賞をいただいて、ただ感無量。すべてはイエス様の愛と導きのおかげ。福音を恥としない生き方、キリストの愛を語ることをこれからも忘れないでいたいと思う。授賞式でキリストを語ることができるなんて、本当に奇跡だと思う」