英国の政府機関「ヒト受精・胚研究認可局」(HFEA)は15日、遺伝的に3人の親を持つ子どもの出産を可能にする技術の利用を最終的に承認した。これは、女性2人の卵子と男性1人の精子を使って体外受精を行うことで、いくつかの遺伝病を撲滅できる画期的な技術とされているが、倫理上の問題から論争になっている。HFEAがこの「歴史的に重要な決定」を下したことにより、2017年末には、この技術による最初の子どもが生まれる可能性がある。
HFEAのサリー・チェシャー議長は、「これは慎重に進めなければならない問題であり、目の色を変えて先走るべきものではありません。この先も長い道のりが残されています」とコメント。「ですが本日の決定により、患者さんが心から喜んでおられることは確かです」と語った。この技術については今年2月、英議会が既に承認しており、HFEAによる最終承認を待っている状況だった。
しかし批評家らは、この決定により、遺伝子操作によって親の意向に沿った容姿や体力、才能を持った、いわゆる「デザイナーベビー」の誕生への道筋が開かれることになると警戒している。
一方、この技術に対しては、難病のミトコンドリア病の根絶に期待が持たれている。ミトコンドリア病は、卵子の核外にあるミトコンドリアDNAの欠損によって引き起こされるもので、ミトコンドリアDNAは父親の精子からは受け継がれず、母親の卵子によってのみ子どもに受け継がれる。
承認された技術は、母親の卵子から核のみを取り出して、核を取り除いた女性ドナーの卵子に移植し、父親の精子で受精させるもの。核内にある通常のDNA(核DNA)は母親のものだが、ミトコンドリアDNAは女性ドナー由来のものとなるため、遺伝的には3人の親を持つことになる。母親がミトコンドリア病患者である場合、この技術を使用することで、異常のあるミトコンドリアDNAは子どもに受け継がれないため、この難病の遺伝を防げると考えられている。
この技術を開発した英ニューカッスル大学の医師らが、この次世代型の体外受精を初めて行う予定。この技術の使用により、年に25組のカップルが健康な子どもを妊娠できると考えられている。
しかし、キリスト教界の一部では、この動きを批判している。
カトリック教会は、「親子関係を希薄にする」として、この技術を合法化した法改正に反対していた。一方、英国国教会は原則としてこの技術に必ずしも反対しないが、影響に関する研究を進めるとともに、この問題の倫理面に関する論議を深めることを求めている。
この技術を警戒している英国の独立監視団体「ヒューマン・ジェネティクス・アラート」(HGA)のデイビッド・キング博士は、「今回の決定は、遺伝子組み換えによるデザイナーベビーの領域に扉を開くことになります」と警戒している。「既に生命倫理学者たちは、ミトコンドリアの入れ替えを許可することは、遺伝子組み換えベビーに反論する論理的根拠がないことを示すものだと主張し始めています」
しかし、英エクセター大学のキリスト教生物科学の専門家であるジョン・ブライアント教授は、「今回の決定が、すぐにデザイナーベビーにつながると考えるのはナンセンスです」と、英国クリスチャントゥデイに語った。
「ミトコンドリアを入れ替えるためのこの技術には、核遺伝子の組み換え、つまり主要遺伝子の組み合せを変更することが含まれますが、その技術は25年余り前から実用化されています」
「この技術は、他の哺乳類、特に医学研究に使用するマウスに広く使用されていますが、人間の胚に使用することを合法化すべきだと言う人は誰もいません」と、ブライアン教授は語った。