宗教法人「小牧者訓練会」(国際福音キリスト教会)の牧師、卞在昌(ビュン・ジェーチャン)氏のセクハラやパワハラに関する一連の民事訴訟が6月14日、最高裁がいずれの上告も棄却し、卞氏のセクハラ行為を認めた判決が確定したことを受けて、卞氏の性的不祥事を憂う日韓の超教派の牧師らは今月、7月25日付の声明文を発表した。
この「ビュン宣教師と小牧者訓練会(国際福音キリスト教会)に対する民事裁判判決確定(最高裁:2016年6月14日)を受けての、日韓の超教派の牧師たちによる声明文」(全文以下掲載)に名を連ねているのは、日本人牧師と日本で活動している韓国人牧師の合わせて23人。
明るみに出てから約8年にも及んだこの事件について、「日本及び韓国のキリスト教会全体の不徳のゆえであったと、私たちは考えている。牧師が罪を犯した時に、教会が聖書的な自浄作用を発揮するどころか、悔い改めを求める者に沈黙を求めたり、反逆者扱いしたりする事例が後を絶たない昨今の風潮の中で、神は被害女性たちの訴えを通して、また今回の判決確定を通して、今日の日韓の教会に警告を発しておられると、私たちは受け止めている」と振り返った上で、今なお無罪を主張し続けている卞氏と教団に対し、「強い悲しみを覚える。これを機会に再度、私たちはビュン宣教師と小牧者訓練会が、神の御前に悔い改めることを願い求める」と呼び掛けている。
声明文を作成するに当たって中心的な役割を果たした疋田國麿呂(ひきた・くにまろ)牧師(日本基督教団大宮教会)は、この事件について「8年前、可能な牧師らは直接卞氏や側近らに会って、悔い改めを促した。それらが実を結ばず、司直の手に裁きが委ねられたことに、私たちは痛みを覚えている」と、その胸のうちを話した。
さらに、この事件の最大の問題を「教会が本来の自浄能力を喪失していることであり、また、教会が不祥事の隠蔽に加担するような体質が、今も、日韓両国に広く根強く残っていること」であると指摘。「類似の事件があちこちで、現在進行形で起きていることも推測される。多くの方々にとって、もうあの事件は触れたくない忌まわしい記憶だが、今回の最高裁の決定を通しても、神様は私たちに警告を発しておられると考えて、あえてこの声明文を発表することにした」と、声明を発表するに至った経緯を説明した。
ビュン宣教師と小牧者訓練会(国際福音キリスト教会)に対する民事裁判判決確定(最高裁:2016年6月14日)を受けての、日韓の超教派の牧師たちによる声明文
神のみこころに添った悲しみは、悔いのない、救いに至る悔い改めを生じさせますが、世の悲しみは死をもたらします(Ⅱコリント7:10 新改訳)
私たちが、2008年暮れにビュン宣教師の性的不祥事の報を聞いてから、8年近くが経ちました。初めはあまりの衝撃に、信じがたい思いでしたが、姉妹たちの被害証言と、それに対するビュン宣教師・小牧者訓練会側の弁明の双方に接して、私たちは、被害証言が真実であると判断せざるを得ませんでした。
その後、私たちはビュン宣教師と小牧者訓練会に、声明文などを通して悔い改めを促しましたが、まことに残念ながら実を結ばず、刑事と民事の二つの裁判が行われるに至りました。刑事裁判は、数多くの事件のうち最も悪質な一件が準強姦罪として起訴されたものの、無罪判決が出たこと、しかし民事裁判では、原告の四人の姉妹たちが訴えた計70件もの性的被害が認定されて、1540万円の賠償が被告に命じられる判決が一審と二審で出たこと、それがこのたび最高裁で確定したことは、周知の通りです。この民事裁判の判決は、膨大な証拠をもとに被害を訴える、原告の姉妹たちの証言の信用性と、それを否定する被告たちの反証の合理性を、一審から最終審まで、合計11名の裁判官が、綿密に比較検証した結果であり、小牧者訓練会の組織としての深刻な問題点をも、明瞭に指摘したものでした。この判決確定までの8年間、原告の方々は、ビュン宣教師とその教団から露骨に嘘つき呼ばわりされ続け、名誉棄損による反訴という、脅かしさえ受けました。それだけでなく、まるでこのような訴えをすること自体が宣教の妨げであるかのように非難するキリスト教界内の圧力にも、耐えなければなりませんでした。
原告の姉妹たちがこの間背負った辛い重荷は、つまるところ、日本及び韓国のキリスト教会全体の不徳のゆえであったと、私たちは考えています。牧師が罪を犯した時に、教会が聖書的な自浄作用を発揮するどころか、悔い改めを求める者に沈黙を求めたり、反逆者扱いしたりする事例が後を絶たない昨今の風潮の中で、神様は彼女たちの訴えを通して、また今回の判決確定を通して、今日の日韓の教会に警告を発しておられると、私たちは受け止めています。
しかしながらビュン宣教師と小牧者訓練会は、民事裁判の一審判決が出る頃から今日に至るまで、時には韓国のメディアまで用いて、「刑事裁判を通して証明された自分たちの潔白を信じて祈り応援してほしい」という趣旨の主張を流布し続けています。5年前(2011年5月)の刑事事件無罪判決は、被害を受けた姉妹たちのうちの1名のみについて、しかも2007年2月17日午後のある時間帯において準強姦の犯罪があったかどうかの、1件のみについて審理された結果、アリバイ成立の可能性が残るとしてビュン宣教師を有罪にはできない、という司法判断が下されたものでした。その刑事無罪判決をもって、他の姉妹たちが長期に亘って反復継続して受けた全ての被害についてまで、疑惑がすっかり晴れたかのように語るのは、とんでもない欺瞞です。
ビュン宣教師と小牧者訓練会が、このような態度をとり続けているという事実に、私たちは強い悲しみを覚えます。これを機会に再度、私たちはビュン宣教師と小牧者訓練会が、神の御前に悔い改めることを願い求めます。またそれと併せて、刑事裁判で彼らの求めに応じて被告側証人として出廷して、「被告教団は聖書的に健康な教団である」と堂々と証言し、原告たちを追い込む側に加担した牧師は、今回の最高裁の決定を受けて、今でも考えは変わらないのか、それとも当時の証言内容を撤回するのか、沈黙せずに、キリスト教界に対する説明責任を果たされることを、私たちは願います。またこの裁判をめぐって、被告教団のホームページ上で彼らを支持する発言を公に続けてきたクリスチャン弁護士も、沈黙せずに、同様の説明責任を果たされることを願います。
今回の事件とその判決は、「主のしもべを責めてはならない。無条件に全てを赦すべきだ」という、かねてからキリスト教界に蔓延していた教えが、いかに人々の人生をひどく捻じ曲げ、神様の栄光をも損なうかを、明らかにしました。ビュン宣教師と小牧者訓練会は、そのような非聖書的な教えの中に閉じこもらず、被害者たちに真実な謝罪と賠償をして、彼女たちから赦しを受け取るための道へと歩み出すべきです。それこそが、神様からの赦しを真に受け取る道なのです。
被害を訴える方たちは、今回の民事裁判原告のほかにもおられると聞いています。私たちは、彼らの癒しと回復を続けて祈り、助けてゆきたいと願います。また、本件以外にも、類似の被害を受けて苦しんでいる信徒たちがもしもいれば、私たちは主イエスの弟子として、彼らを助けたいと願います。更に、主の大切な羊たちに泣き寝入りを強いるような不健全な体質が、自らにないかを牧師として厳しく問いつつ、この事件と判決が日韓の教会に与えている教訓を無にせぬよう、努めたいと願います。そして教会が本来の自浄能力を回復して、御名の栄光をあらわせるよう、共に聖霊の助けを求めて参りたいと願います。
なぜなら、さばきが神の家から始まる時が来ているからです(Ⅰペテロ4:17a 新改訳)
2016年7月25日
卞在昌(ビュン・ジェーチャン)宣教師の性的不祥事を憂う日韓の超教派の牧師一同<署名(敬称略、アイウエオ順)>
赤松望(日本伝道福音教団五泉福音キリスト教会牧師)
李壽求(韓国・日本福音宣教会代表、前札幌国際キリスト教会牧師)
遠藤明匡(楠葉キリスト教会牧師)
大杉至(日本同盟基督教団伊那聖書教会牧師)
小笠原孝(基督聖協団練馬グレースチャペル牧師)
小淵康而(日本基督教団元新潟信濃町教会前主任牧師)
亀井俊博(西宮北口聖書集会牧師)
金俊起(稲城聖書教会牧師)
金明皓(韓国・大韓イエス教長老会 大臨教会牧師、前国際弟子訓練院代表)
権宅明(韓国・日本福音宣教会理事)
齋藤篤(日本基督教団深沢教会牧師)
坂本兵部(日本基督教団葦のかご教会牧師)
下道定身(日本アッセンブリーズ・オブ・ゴッド教団札幌レインボー・チャペル牧師)
鈴木靖尋(亀有教会牧師)
千葉明徳(シャローム福音名誉牧師)
鄭斗永(ぶどうの木八王子キリスト教会牧師)
延藤好英(日本基督教団和気教会牧師)
濱野好邦(基督聖協団青梅教会牧師)
原田史郎(日本基督教団南房教会牧師)
疋田國磨呂(日本基督教団大宮教会牧師)
堀江明夫(日本基督教団金沢元町教会牧師)
本多泰治(麻溝台キリスト教会牧師)
松永堡智(日本同盟基督教団新津福音キリスト教会牧師)