現在放映中のNHK大河ドラマ「真田丸」。物語の中盤に入った今週の第28回「受難」では、伝説的な大河ドラマ「黄金の日日」で主役・呂宋助左衛門(るそん・すけざえもん)を演じた松本幸四郎(当時は市川染五郎)が、38年ぶりに再び同役で登場し、話題となった。
そして24日放送の第29回「異変」からは、日本史におけるキリシタン女性の代名詞的な存在、細川ガラシャが登場。演じるのは、タレントの橋本マナミ。主人公真田信繁の妻・きりが、ガラシャと出会い、キリスト教へと興味を持ち始める場面が描かれる。
ガラシャの本名は、たま(珠、玉)あるいは玉子(たまこ)で、ガラシャ(伽羅奢)は洗礼名。明智光秀の娘として生まれ、父が倒すことになる織田信長の媒酌で細川忠興(ただおき)の正室となるが、本能寺の変が起こり、2年間幽閉の身となる。
豊臣秀吉の恩赦を受けて忠興のもとに戻るが、忠興が徳川家康に従って出陣している最中、石田三成に包囲されて人質になるよう迫られたため、家老に命じて胸を突かせ、38歳という若さでその生涯を終えた、ガラシャ。
その生い立ちから、死に様までがあまりにドラマチックなために、また、宣教師クラッセが著した『日本西教史』に「容貌の美しさは比べるものなく」と記され、母・明智煕子(ひろこ)と共にたいそうな美女であったと言い伝えられることから、「悲劇のヒロイン」の呼び名が高いガラシャ。
さらに、忠興とは美男美女のカップルとして有名で、先に若くしてガラシャが亡くなったにもかかわらず、その後は他に妻をめとらなかったほどに仲むつまじかったという夫婦関係は、当時にしては大変珍しく、いつの時代も人々の注目を集めてきたガラシャ。
ガラシャがキリスト教に触れるきっかけを作ったのは、かの高山右近だ。右近が忠興らに話をしているのを耳にして、キリスト教の教義に心ひかれたガラシャは、幽閉生活中にキリシタンの侍女・清原マリアを通してキリスト教に近づいていく。
忠興のもとに帰ってのち、実際にイエズス会の教会に足を運んでスペイン人司祭らから説教を聞いたガラシャだが、嫉妬心の非常に強かった忠興の目の光るところでは、簡単には教会に通い続けることができず、マリアを通して教義への理解を深め、彼女から洗礼を受ける。
「精神活発にして鋭く、決断力に富み、心情高尚、才智抜きんずる」(『日本西教史』)と記録されるほどに、ガラシャのキリスト教に対する理解力と、また信仰の実践力は、宣教師たちを驚愕(きょうがく)させるほどであったという。
作家の永井路子と司馬遼太郎もガラシャについての対談の中で「おたまの信仰ぶりは大変なもので、・・・キリストのような西洋風の絶対的なものをはじめて知った日本女性でしょう。・・・それまでの日本の哲学、宗教は相対的なものだったので、絶対の観念というものをうまくのみ込めない」(『歴史のヒロインたち』)と話している。
宣教師らとの深い交流を持ち、教会を援助し、孤児たちを助け、愛読するキリシタン版を自ら翻訳して人々に読み聞かせたりと、布教活動に非常に熱心に取り組んだガラシャは、忠興との間の3男2女の子どもたちも受洗させている。
逆に熱心過ぎたことが仇となったようで、ついに忠興がキリシタンになったとの記録は残っていないが、ガラシャの死に当たって忠興は、キリスト教式の盛大な葬儀を行って教会にも多大な寄付をした。貧民に喜んで全てを分け与える教会の在り方に、他の宗教にないものを見いだし、関心しながら敬意を払っていたという。
ガラシャの生涯を描いた作品といえば、三浦綾子の小説『細川ガラシャ夫人』がよく知られている。その後、数多くの歴史小説を手掛けた三浦が、最初の主人公として選んだのが、同じ女性であり、キリスト者であったガラシャだった。
その著書の終わりに、三浦は「書き終えて、わたしは改めて今、ガラシャ夫人の死を、生を、実に重たく感じている」と記し、特に女性が1人の人間として生きることが難しかった時代にあって「霊性に目覚め、信仰に生きたガラシャの生き方は、わたしの心を深く打つ」と記している。
今回の「真田丸」で、ガラシャの人物像や生き様がどれほど描かれるのかはまだ明らかでないが、演じる橋本は、総合情報サイト「MANTAN WEB(まんたんウェブ)」などのインタビューで、キリシタンという役どころについて聞かれると、「実家の近くに教会があり、よく遊びに行って、聖書を読んだり、キリスト教の人たちと触れ合う機会は多かった」と話している。
これまでの過去の大河ドラマでも、「功名が辻~山内一豊の妻~」で長谷川京子が、「江~姫たちの戦国~」でミムラがガラシャを演じてきたが、また一味違う橋本の新しい演技に期待がかかる。