教皇フランシスコは7月末、ポーランドにあるナチス・ドイツのアウシュビッツ強制収容所跡を訪れる予定だが、そこで600万人のユダヤ人、またその他の何百万人もの少数派の人々の死を「祈りと涙」をもって追悼したいと願っている。教皇はそこで説教するという最初の計画を取りやめたのだ。
教皇フランシスコは7月29日、ポーランドで開かれる青年カトリック信徒の年次集会「世界青年の日(ワールドユースデー)」の式典に出席するのに合わせて、アウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所跡を訪問する予定である。
教皇は当初、ビルケナウの国際追悼記念碑前で説教をすることにしていた。歴代のローマ教皇では、先々代のヨハネ・パウロ2世と先代のベネディクト16世の2人もポーランド訪問中にそこで説教をしている。
6月末にアルメニアを司牧訪問した教皇は、アルメニア虐殺記念館での説教も行わなかった。
バチカンのフェデリコ・ロンバルディ広報事務所長は、アルメニアからローマに戻る機内で、教皇にアウシュビッツでの説教について、「聖下は言葉を語るよりも、むしろ沈黙してその瞬間をお過ごしになりたいと聞きましたが」と記者たちがいる中で尋ねた。
教皇は、第1次世界大戦開戦から100年目に当たることを記念して、2014年にイタリア北部フォリアーノ・レディプーリアを訪れた際、慰霊施設の中を1人で歩いたことについてこう述べた。「私は、静寂の中を歩きました。その後、ミサがあり、そのミサで私は説教をしました。しかし、あの静寂は説教とはまるで違うものでした」
カトリック・ニュース・サービス(CNS)によると、教皇はアウシュビッツについて、「あの恐怖の場所に行くのに、言葉も群衆もいりません。ほんのわずかな人たちがいればいいのです。1人で入り、祈る。主なる神が、私に涙することのできる静謐(せいひつ)な時を与えてくださいますように」と語った。
教皇はホロコーストに関してしばしば発言や執筆をしている。共著書『天と地の上で』の中で、教皇と共著者のユダヤ教のラビであるアブラハム・スコルカ氏は、ホロコーストについて対話をしている。その中で教皇は、「ナチス・ドイツが殺したユダヤ人一人一人は、生ける神に対する一発一発の平手打ちだったのです」と述べている。
教皇は同年、イスラエルのホロコースト記念館を訪れており、記念館の芳名帳に、「神の御姿に似せて創造された人間がしたことは、何と恥ずべきことだったか。人間が自らを邪悪の主(ぬし)としてしまったとは、何と恥ずべきことだったか。自らが神となって、兄弟たちを殺してしまうとは、何と恥ずべきことだったか。再び繰り返してはならないのです。決して繰り返してはならないのです」と書いている。